カンヌ2014:U2ボノ&Apple ジョナサン・アイブ対談最終セミナー

あっという間に、カンヌ最終日。そして、最終セミナー。
そして、最終セミナーにふさわしいカード。アップル上級副社長 Sir Jonathan Ive氏とU2 BONO氏の対談。モデレーターは、VICEマガジンのCEO, Shane Smith氏だ。

このセミナー、まず、人がすごい。Sarah Jessica Parkerやう、Sir John Patrickなどのセレブリティーが参加してたセミナーもすべて含め、これまで出たどのセミナーよりも人が多かった。私は、1時間半前から、別のセミナーに参加して、そのまま席を陣取った。

DSC_0123まず、前列すべてにカメラマン達が陣取り、前が見えない。最前列の人はちょっとかわいそうだった。右がBONO、中央がShane Smith、左がSir Jonathan Ive。BONOはとりあえず、グラサンをかけている。ロックスター感満載。

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今日の対談のメインテーマはREDプロジェクトについてだ。REDプロジェクトは、アップルとの関連が一番有名だが、2006年にU2のボーカルであるBONO氏によって立ち上げられたプロジェクトだ。目的は、アフリカのエイズを撲滅すること。アップル以外にも、上のスライドにある企業と様々な形でコラボを行い、プロダクトの売り上げから、エイズ撲滅のために寄付を行う、というものだ。アップルだと、赤いipodとかipadが有名だ。

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モデレーターのShane Smith氏が話を振りながら、Bono氏とJonathan Ive氏から話を引き出していくのだが、BONO氏はすごいですね。自分のプロジェクトに本当に情熱を持っているのがこちらにも伝わってるように語るし、ちょいちょい、ジョークを挟んでくれるのも、気が利いていて格好いい。

昔、Steve Jobs氏とBONO氏がREDプロジェクトでの打ち合わせをしているとき、BONO氏から「アップルロゴにかっこ()をつけさせてくれ」と申し入れたときに、けんもほろろに断れたらしいのだが、※Redプロダクトは、かっこ()がコンセプトを表す大事なキービジュアル。

“So when Steve told me that nothing interferes with the logo, I just thought, well, cram up your phone in the ass…and that was before the iPhone by the way guys!”
(スティーブに、アップルのロゴの周りは絶対に不可侵だ、と言われたとき、こいつのケツにこいつの電話をぶっ刺してやろうかと思ったよね・・・あ、ちなみに、これ、iPhoneの前の話ね!)

会場大受け。とにかく話が面白い。芸人の話聞いてるみたいだった。

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ちなみに、さらにすごいなと思ったのが、この上の写真。BONO氏の上にREDプロダクトのiPadがあるのだが、いきなりケースを外して一言。

「みなさん、これちょっと見てくれる?REDのロゴがね、iPadのケースの後ろにあって全然見えないの!」

「ジョニー、どうよ、これ?直そうよ!ね!」

といきなり、Jonathan Iveに直談判。(むしろ軽くディスってる)。が、そこはJonathan Iveも大人。ちょっと憮然としながらも、

“Modesty is the Apple way…”
(控えめであることは、アップルのやり方なんだよ・・・)
とぼそっと一言。

かっこいい。

そして、会の後半。ここでもさらにびっくりした。いきなり、通路席に赤いバケツみたいなのを持っている人達が現れた。「あれ、寄付金でも募るかな?」と思ったら、これに名刺を入れて、「俺たちと一緒にREDプロダクトをつくろう!」とBONO氏が言い出した。

さらに、「あと、なんか今いいアイデアでたら、発言してさ、俺に教えてよ!」といいだして、「会場総ブレスト大会」/「私、これやります!大会」になった。

中南米の銀行の担当者が「RED銀行口座」をつくることをその場で確約したり、なんか、ネットのドメイン扱ってる人が、世界で一つしか無い .hiv というドメインがあるらしく(?)、それをBONO氏に寄付するとか言い出したり。新手の商法みたいな事になってた。(私も一つ思いついたことがあるにはあったが、あまりにびっくりして戸惑って発言できなかった・・・)

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もう、会場総立ち。音楽のライブでもないのに、ライブ会場みたいになってた。すごかった。

カリスマはこうやって、人を動かして、世界を変えていくんですね。

 

・・・と、そんなわけで、私の初カンヌはこれで終わりました。事例もたくさん見たし、セミナーもたくさん聞きました。いろいろな国の人達と知り合いになり、話し込みました。そして、自分がその会場の中で、なにもコントリビュートできることがないのがただただ、悔しかったです。仕事をするのではなく、「素晴らしい」仕事をする。真摯に研究を怠らず、ゴールを達成するための正しいアプローチを心がけていれば、あるいは、達成可能な事かもしれません。仕事を不在にしてしまい、たくさんの人に迷惑をかけてしまっておりますが、日本に帰国して頑張ります。(カンヌに来てから、何回がんばるという言葉を口にしたか、、、)

カンヌ2014:電通セミナー

博報堂セミナーについて、書いたので電通のセミナーについても書くことにする。

今年の電通のセミナーのタイトルは、”Augmented Human”だ。
イントロで、映像が流れるのだがトリッピーで格好いい。紹介できないのが残念だ。

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本日のメインスピーカーは、佐々木康晴氏。(僕の上司だ。)

開始後早々の発言。
「今年はパフュームこないんだ、ごめんね(笑)」
と軽くジョークをかまし笑いをとり、
「そして、今日はアドバタイジングの話はしません。」
と。

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よく、ARだとか、言われるが、まずはAugmentの定義のおさらいから。「何かを付随して付け足す」みたいな意味だが、もっとシンプルに言うと、このスライドに書いてあるとおり、何かをよりすごくしたり、キャパシティーを高めたりするということだ。

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そして、
今日のセミナーのテーマである”Augment Human”だが、Augmentするのは、Realityではなく、Humanである。テクノロジーの新しい使い方。
ここ最近の電通がつくったものを一通りご紹介。
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NEKOMIMI.
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Living Wallet. 財布の可愛い動きがリスナーに受けてた。

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次に、佐々木さんから同じく本日のプレゼンターである、東京大学大学院情報学環の暦本教授にバトンパス。最近の研究と共に、Augmented Humanの考え方に触れてもらう。

スライドの写真が無くて恐縮なのだが、人が道具を使うときを例にだして説明をしてくれていた。たとえば、マウス。OSというものに対して、マウスがインターフェースとなり、OS上の「ポインター」として、自分の動きをAugmentしてくれる。

他の道具でも同じだ。たとえば、包丁。包丁を握る「柄」の部分がインターフェースとなり、刃が「切る」、という行為をAugmentし、可能にしてくれる。

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すこし、考え方を拡張して、Jack Inという別の観点からAugmentを考えてみる。Jack Inとは、マトリックスとかであった、機械の中に没入する、という状態ですね。この後の例で出ていたのが、ドローンにカメラを装着して、その映像を人間にOculusなどで送る、というもの。そうすると、第三者視点で、ジョギングができる。

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サッカーなんかも、より面白い視点でプレーできたり、それを他に共有できたりするようになる。

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トピックはまたすこし移り、今度はスポーツの話に。

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スポーツをAugmentするとして、そのときにカテゴリーが3つほどに分かれる。トレーイング、観戦、そしてプレーするときだ。

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たとえば、トレーニングするとき。Swimoidとよばれる、スライドの下にうつってるマシーンだが、こいつは、泳いでいる人の下を「伴泳」し、鏡のようにその人のスイミングフォームを見せてくれる。泳いでいる人も、コーチも、実はなかなかフォームについて把握できないので、このように、別の視点から見れるようにすることで(例えば、コーチが地上からこのSwimoidが把握している映像にJack Inすることで)、トレーニングという領域をすこしAugmentする事ができる。

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次は、スポーツを観戦するときのお話。良く、GoProなどで自分目線で撮った映像がアップされていたりする。

DSC_0027これは、すなわち、スポーツをしている人に観客がJack Inするということともいえる。そう捉えると、もっと、いろいろな面白い可能性が広がってくる。

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たとえば、このヘッドギアのようなマシン(スライド左側)。装着している人の視点を360度確保できるという優れもの。Oculusなどを使えば(スライド右側)、その人の視野を「再体験」できるというわけだ。

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ここで、教授が実際にデモで見せてくれた。

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たとえば、それを大車輪をしている体操選手に付けてみる。そうすると、体操選手の演技を、体操選手側の視点から見れる。ぐるぐる回って、気持ち悪くなるかもしれないので、プログラム的に処理をして、「視点を固定して」演技を見る事も出来る。

このあたりから、聴衆から感嘆の声が漏れはじめる。そして、隣の人から、「え、すごい、どういうこと?」という声が上がってので、自分が知った風な顔して「いや、だからね、Augmentされてるわけ、わかる?」と解説をする。

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そして、次にプレーするときの話。紹介されたのは、HoverBallというもの。ドローンが中に内蔵されたボールだ。

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そうすると、何が実現できるかというと、たとえば、大人と子どもがキャッチボールして遊んでいる時を考えると、子どもがキャッチするときだけ、キャッチできるようにスピード落とす、ということも可能になる。

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他にも、ボールに「あり得ない動き」 をさせたりする事ができて面白い。

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実際にデモを見せて頂く。投げたら帰ってきた。フォースの使い手みたいだった。

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スポーツをエキスパートのものだけにするのではなく、本当の意味で、「みんなのもの」にできる可能性があるものなのだ。

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ここで、Dentsu Lab Tokyoのご紹介。そこでのプロジェクトについての話になる。

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そして、満を持して、太田選手の登壇!プレゼンに熱気がこもっていて、すばらしかった。ジェスチャーとか、相当練習したんだと思う。その徹底的な姿勢に感動した。

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太田選手からは、2020東京オリンピック招致の時に話題になっていた、フェンシングをセンシング技術を使って可視化する話があった。

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端から見て、フェンシングは、いったい何をやっていて、そもそも、どっちがかったのかすら、よく分からん・・・ということで、それを様々なセンシング技術を駆使し、みんなにも分かるようにすれば、楽しいよね、という話。

実際に、太田選手の「突き」を実演してもらい、その場で剣先をトラッキングする、というデモも見せてもらった。

このあたりでも、リスナーはみんなびっくりしてるようだった。

そして、映像だったので、残せなかったが、国立競技場プロジェクトの紹介映像も最後に流れた。

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最後に、佐々木さんによるシメ。機能だけではない。技術だけではない。エモーションを追求することで、より大きな課題を解決していく。
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プレゼンター3人。

プレゼンが終わったときは、会場から割れんばかりの拍手。博報堂セミナーのエントリーでも書いたが、なかなか他のエージェンシーにはまねできないような日本の仕事のやり方や、強みが明解に伝わったのではないかと思う。(隣にいた人に話を聞いたら、「日本すごいわね、私たちのエージェンシーじゃ、絶対できないわ」といわれた。)トピックの内容も具体例やデモがふんだんに用いられたので、すごく良かった。

プレゼンが終わった後、周りの全然しらない人達に、どや顔で「あれ、僕の上司なんすよ」と触れ回った。別に、自分自身は何もしてなかったけど、自分の会社が誇らしかった。が、また同時に、特に良い仕事をしているわけではないので、悔しくもある。来年こそは、なにかプレゼンできる立場になりたいと強く感じた。

がんばろう。

カンヌ2014:勝てるケースフィルムをつくるヒント

火曜日の夜、カンヌのオープニングガラ(=カンヌ主催者がホストするパーティみたいなもの)でうろうろしていたら、たまたまメディア部門の審査員の人と偶然話す機会があった。

恐縮しながらも、「カンヌで賞をとるにはどうしたらいいか、僕にアドバイスを何かひとつ授けてくれませんか?」と聞いてみた。そのとき、審査員が言っていたのは、「ケースフィルムに全力を尽くせ」だった。

そう、カンヌは、エントリーしている施策自体もさることながら、ケースフィルムの戦いの場でもあるのだ。各カテゴリーのショートリスト以上の作品を観ているが、これまで何百本のケースフィルムを見てきた。審査員であれば、もっとたくさんの数を見ているはずだ。

当たり前の話だが、やはり、ケースフィルムの出来具合、明解さが、審査の場面で重要になってくる。

明解さとは何か?

メディア部門の審査員がそのとき言っていたアドバイスは、「アイデアをケースフィルム全体のなかで、40〜50秒以内に提示する」というものだった。

自分なりの解釈だが、実例を見ながら、ちょっと検証してみた。

AUDIの”INSTANT VALUATION BILLBOARD”

メディア部門ショートリスト。クルマをOOHの前におけば、クルマの値段を査定してくれる、というシンプルなアイデアの事例だ。ビデオを見出して、アイデアを理解して、「ピンとくる」という状態が、17秒目にぐらいには既に来ている。

だが、カンヌでショートリストまで残っている事例の中には、いわゆるソーシャルグッドな事例も多く、ソーシャルグッドな事例は、社会的/文化的/政治的状況を説明するのに、時間がかかるので、なかなか難しいと思うかもしれない。

では、こちらを見てみよう。
ANZの”GAYTM”

ANZ GAYTMs Case Study PR from Eleven PR on Vimeo.

2014年アウトドア部門のグランプリだ。LGBT活動をサポートするために、ATMをLGBT仕様の見た目にかえる、というすばらしいキャンペーンなのだが、コアアイデア(WE TURNED ATM TO GAYTM!とでかでかと出るところ)は40秒時点で提示されている。

では、技術的に難しい仕掛けのものはどうだろうか?説明に時間がかかってしまうのではないか?

NIVEAの”PROTECTION AD”

2014年モバイル部門のグランプリだ。「雑誌の紙を切り破って腕に付ける」という部分の説明に行くまで、約44秒。これも50秒ルールを守っている。

ケースフィルムは2分まで、というのがカンヌ出品の際のルールなのだが(これ以上でも出品できなくはないが)これまで、自分は、施策が良くて、ケースフィルムは2分ぐらいだったら大丈夫だろう、という緩い意識でいたが、審査員の「ケースフィルムちゃんとやれ」という言葉を聞いて、ケースフィルムの質の重要性をより理解した。当たり前だが、大事になことだ。

その言葉を授けてくれた審査員に「明日からは何するんですか?」と聞いたら「パリに行くわ」と言って、颯爽と去って行ってしまった。

カンヌ2014:Saatchi & Saatchiセミナー

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超人気セッションという呼び声が事前から高かった、Saatchi & Saatchiセミナーに行ってきた。セミナーのタイトルは”Feel the Reel.” サーチ&サーチの映像ディレクターの作品を紹介する、というセッションだ。

実は、ここ数日カンヌのセミナーに出ていて、意外と「ハズレだな・・・」と思うことが多かったので、ショートリスト作品ばかりを昨日は見ていたのだが、このセミナーに関しては、複数の人から「すごくいいらしい」「絶対行った方がいい」「去年もすごかったみたいだから」という声が多かったので、これに関しては行くことにした。そして事前の高い呼び声を裏切ることなく、会場には、セッション40分前にもかかわらず、長蛇の列ができていた。そして、このセミナーは、他のセミナーと比べて、だいぶ気合いが入っていた。

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まず、入場するとナースのコスプレをした人がいる。

なぜ、ナースなのかというと・・・。
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入場するときに、こんなものを渡されるのだ。腕に付けて、脈を測定するのだ。映像を見ながら、興奮しているかどうかのbiometricデータを取得しようというのだ。凝っている。

ちなみに、こんな感じで映像を見ながら、リアルタイムにみんなのbiometricデータが反映される。会場が暗かったので、ブレブレなのが申し訳ないが・・・。
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オシャレである。

普段は、テクノロジーのことばっかりやっているので、純粋に面白い映像コンテンツを見る、というのはなかなか新鮮だし、普段触れる機会の少ないものやことに触れるのが大事だと思う。

紹介してもらった映像作品は、CM/ショートフィルム/Music Video/実験映像など、多岐にわたる。滅茶苦茶本数があったので、自分が好きだったやつを載せることにする。

“Moving On”

全編「糸」で表現されているMV。大切な人との別れ。高いクラフトを通して、見ていると泣きそうになってきた。

“Beans”

豆のスープ缶のCM。コピーがすごいね。”Not for Astronauts.”って。

“Cybersmile #dontretaliate”

ネットでのいじめについてのCM。徐々に追い詰められていく様子が、縄で表現されており、うまいと思う。

“Conference Call in Real Life”

テレカンあるある。笑った。

“The Sunday Times Icon”

新聞のSunday TimesのCM。文化欄にいろいろなことが載ってるよ!ということを訴求するCM。

“It’s Not Porn”

SATCとか、割と下世話な番組をよく流しているHBOのCM。俳優/女優の卵達が友達に、「ねぇねえきいて!役が決まったの!」と話をしていて、どんな役かと聞いていると、それはAVそのもの。友達が、どん引きする中、「ねぇ、それ、AVだよ・・・」と言うと、「違うの、HBOだよ!」「マジ!」「やったじゃん!すげえ!」と言う反応に変わる。

“Grab Her”

ミュージックビデオ。重力を逆転させる男(?)が巻き起こす珍騒動。

“Breach Jack”

Breach / Jack from riffraff films on Vimeo.

これは、なんて説明したらいいか分からんが、くるっとりますな。単純なメロディーや、仕組みにつくって、それを応用しながら映像をつくっていく。好きな部類です。

また、面白いものがあったら、書きます!

カンヌ2014:Future Lionセミナー

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今日は、レイ・イナモトさんがスピーカーをつとめるFuture Lionのセミナーに行ってきた。

前日に、主催者がホストする公式のパーティーがあったので、いろいろやってたら、レイさんを発見!よっしゃ、話しかけに行こう!ってことで、白々しく、何も知らない振りして話しかけて、「あ!あのレイさんですね!失礼しました!」みたいなちょっとした寸劇をやっていたりしたのだが、「実は今やってる仕事で迷っていることがあって、かくかくしかじかこんな内容なんですけど、どう思いますか?」とせっかくなので聞いてみたところ、「それだったら、明日セミナーやるから、聞きにきなよ!」と教えて頂いたので、行ってきた。

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Future Lionとは、9年前からAKQAが主体となって毎年やっている、学生向けの新人発掘セミナーみたいなプログラムだ。お題に対してソリューションを出し合い、その内容を競う。カンヌに対する批評でよくある一つに、「カテゴリーに分けることに意味はあるか?」というものがある。Future Lionはその批評に対するアンチテーゼという意味合いもあり、カテゴリーは特にない。参加者は、アウトプットをカテゴライズせずに、自由にソリューションを考えられる。AKQAは、これを毎年無償でやっている。かわいらしいライオンがマスコットキャラだ。ちなみに、今回は40超の国からの参加で1700以上の応募があったとのこと。メインのカンヌカテゴリーよりも多くのエントリーがあるような部門になりつつある。一番応募が多いのは、アメリカとイギリスで、信じられないことに、日本の応募数は「25」だそうです。せっかくのプログラムなのに、本当にもったいない・・・。

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肝心のお題だがだが、きわめてシンプル:
「5年前には不可能だった方法で、ブランドとターゲットを結びつけよ。手法/ブランドは不問。」
どうだろうか?わくわくしないだろうか?(ってか、自分も応募できたらしたかった)

今年は、以下のエントリーが入賞していた。

Google Gesture

最近のガジェットで、自分の筋肉の動きで、ジェスチャーを検知できる、というものがあるが、これをGoogle翻訳とつなげて、手話をスピーチに変換する、というもの。きちんと、既にあるテクノロジーを使っているし、できそうな感じもする。が、ありそうでなかった、というところが憎い。

Donate by Update

これも非常にうまいと思った。Redプロダクトが一時期流行ったが、既にアップル製品を持っている人達に対して、以下に買う意味をつくるか?というのが出発点。だとするならば、製品を買わせるのではなく、OSのアップデートを課金することで、寄付を集めるようにしよう、というもの。問題に対してのソリューションが、鮮やか。

Do Zero For Climate Change

アイスを保存するのに、不必要に温度の低い冷蔵庫である必要は無い。そこに着目したネタ。

HEARt Me

子どもの心臓の不穏な動きをウェアラブルTシャツで検知し、親のスマホに情報を送信。それだけでなく、心拍数のデータを研究目的で使うこともできる、というアイデア。

Passion is Power

深刻な電力不足に悩むブラジルで使うことを想定した事例。スタジアムに、衝撃で発電ができるマットを導入。ワールドカップの実施が、電力不足の解決に繋がる、という昨今のブラジルのワールドカップのデモを解決するのに役に立ちそうな事例だ。

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ちなみに、受賞した作品のアイデアを考えた学生達が壇上に上がっていくのだが、そのときに男女のペアでコンビを組んでいたグループがいて、男が女にキスをして上がっていったやつがいて、格好いいことこの上ない。負け組気分をこれ以上にないほど増長された。

・・・明日から、がんばろう。

と、そんなことはさておき。
レイさん、最後にこんな事をそういえば言っていた。

“Technology should function to remove friction.”
“And both the brand and the technology should function to serve the humanity, if not to change the world, but to make a dent in the universe.”

物事を難しく、大変にするのはテクノロジーの本意ではない。
そして、究極的には、ブランドを通じて我々がつくるものが、少しでも世界をよくするようにする。

もしかしたら、自分の仕事のヒントはここにあるのかもしれない。

カンヌ2014:課題解決のために「ハック」した事例5選

クリエーティブ部門に移ってから、いろいろな人に体系的にやれと言われていることがあり、それはとにかくたくさんの事例を見て、研究する事である。今回、カンヌに来ているのも、浴びるように事例を見る事が、目的の一つだ。

事例をいろいろ勉強するようになり、何となく自分の好きな「カテゴリー」があることに気付いた。

「こんな簡単なやり方があったのか!という手法。「ずるい!」とさえ思えてしまうような手法。ある種、「ハック」するような方法に、自分としては強く惹かれるところがある。

まとめられれば、他のエントリーで、またかければと思うが、会場で審査員に話を聞いてみたりすると、賞をとる事例は、とにかく「アイデア」の良さが繰り返し語れるのだが、自分が好きなハック的手法にはこのアイデアの要素が強く内包される。時には狡猾にすら思える、予想を裏切る手法で、見事に目的を達成し、課題を解決する。また、その裏切りのプロセスが、きわめて人間的なので、コミュニケーションに接近した人も、「あ、こりゃやられたな」という風になる。これはアイデアである。自分も、こういう事例をやってみたいと思う。

カンヌで、様々な受賞作品を観ながら、そんな「ハック」的な作品があったので、自分がこれまでみたもののいくつかをここで紹介できればと思う。

Brother In Arms “Bank Job” 〜①銀行の振り込み通知をハックする〜

Brother In Armsはチャリティー団体だ。寄付を募るために、企業に寄付のお願いをする必要があった。そこで、オンライン送金フォームというプラットフォームを逆手にとり、こちらから寄付をしてくれそうな企業に「勝手に」お金を送金する。そのときに、備考欄にちょっとずつメッセージを記載し、何回も送金すると。送られた側からすると、大量の少額の入金があり、しかもそれを続けて読むとメッセージになっている。そして、すごいのは、ただメッセージを送るだけでなく、送られたお金がエラーとして出てくるので、先方はお金を返さなければならず、返すには電話をするしかない。ある状況を逆手に取り、向こうの行動を無理矢理規定する。スト2のハメ技のようなやっかいさだ。これは、まさしくハックだと思う。

“Phubbing” 〜②言葉をハックする〜

オーストラリアの国語辞典の事例。「言葉とは変わり続けるものだ」ということを訴求するために、考え出された事例なのだが、やり方がえげつないぐらいすごい。何をしたかというと、国語学者や、クロスワードパズル師などの、言葉に関するエキスパートを集めて、「スマホに夢中になって、人の話を聞かない」という動詞はどんな言葉か?ということを議論。結果、”Phubbing”という言葉を開発。そして、この言葉が、実際に動詞として人々の間で浸透。「言葉をつくる」という荒技をどうやってやったのか詳細は分からないが、言語をハックする、というアイデアがすごい。

“Removal Happens” 〜③Youtubeの仕組みをうまく使う。〜

とある、離婚相談に強い、法律事務所の広告。ちょっと、悲しいというか、何とも言えなくなってしまう広告だ。700人のクライアント候補に、メールを送るのだが、そこにあるのは、ありがちな新婚カップルの結婚式のYoutubeリンク(とその動画のサムネール)。なんだと思って、動画を再生しようとすると・・・。

“#Sochiproblems” 〜④時事ネタを逆手に取る〜

ソチオリンピックは、競技もさることながら、開催直前になってもジャーナリストが使うホテルの設備などが全くできておらず、あり得ないサービスの数々がソーシャル上で話題になったオリンピックでもあった。会場に到着した記者達が、「ホテルの蛇口ひねると茶色い水が出てくるぜ!ありえねー!」とか「部屋の予約が取れてなかった・・・ってか、むしろ部屋自体が完成してないんだけど!!」といったようなツイートがありえなさすぎて世界中で面白がられてバズっていたのだが、この状況をうまく逆手に取ったのがAirbnb。そんな悲壮なツイートをしている記者達に対して、逆にツイートを送り、Airbnbだったら、全然快適だったのに、残念だね!というツイートを逆に送りつける。話題になっている時事ネタにうまく乗っかって、逆に自分たちの話をしてしまう。非常にうまい方法だと思う。

“Incomplete Bios” 〜⑤大事にしたいプロフィールを利用する〜

これも、シンプルで非常に好き。子どもへの施策について言及しない政治家に対して、いかに政策を引き出すか。この事例では、政治家のwikipediaを編集。「子どもへの政策」という項目を対象の政治家のプロフィールに追加。そこをあえて、白紙にする事で、マニフェストに政策が欠落していることを訴求させる。やっていることはシンプルだが、メッセージとしては、強い。

たしかに、効果のほどはどうか?という事例も中には少なくない。だが、問としてあげられた問題に対して、どのようにエレガントに解決策を提示するか、ということについてはアイデアが確かに感じられるものばかりだと思う。

でも、なんだか、ハックハックって、バカみたいですね。

カンヌ2014:博報堂セミナー

今年は、自分のキャリアで生まれて初めて、カンヌに来てみることにした。自腹で。

営業から転局し、今日に至るまで、しばらくクリエーティブの部門に身を置いている訳だが、これまでちゃんとクリエーティブとしてのトレーニングを包括的に受けてきてわけではなく、足りない部分がめちゃめちゃあると自覚しているので、短期間ではあるが、世界で最高のクリエーティブに身を浴すことで、その研修に少しでもなればと思い、来た。

すでに、悔しい思いというか、受賞している人達がうらやましく見えてしかたないので、カンヌに来た効果は出ていると思う。

カンヌと言えば、エントリー作品を見る事が多いが、カンヌの会場では、セミナーも多く行われている。カンヌのセミナーについては、語られることがあまりないので、去年のSXSWと同じようにそれについてまとめてみることにする。

今日は、博報堂のセミナーが印象に残ったので、それについて、書く。

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博報堂のテーマは、「2024において、エージェンシーのモデルとはどうあるべきか?」というものだった。今から10年後の未来だ。遠いようで、そう遠くない未来。

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プレゼンターは、博報堂の長谷部守彦氏と博報堂ケトルの木村健太郎氏。お二人の姿を撮るのを忘れてしまった・・・。二人とも、絶妙な漫才的な掛け合いで、面白かったです。senseiってのがkarate kidを彷彿とさせる。

DSC_0106ちょい、スターウォーズっぽいスライド(笑)このセミナーでは、大きく三つのトピックがあった。2024のエージェンシーでは、どのようなスキルが求められるのか。また、そのときの組織はどうあるべきか。そして、2024のエージェンシーは、どのようなミッションを持つべきか。

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過去と現在から、未来を読み解く。

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博報堂が、もつサービス領域はStrategy/Creative/Digital/PR/Media/Eventなど多岐にわたる。

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ここまでは、通常の広告コミュニケーションの範疇。

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だが、目を転じてみると、先ほどの広告領域以外にも、領域は外にたくさんある。

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この領域までに波及することを、博報堂はMarket Designと定義。
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その実例の一つ。例えば、このHito Medical Hospital。これは、博報堂が設計まで携わった病院。
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広告会社がやるだろう伝統的なネーミングや、ビジュアルアイデンティティの設計に始まり、
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内装や建築までも設計している。
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まるで、ホテルのような内観の病院だ。
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入院する人だけでなく、一緒に看病する人のことも考えて設計された病室。奥に和風の個室がある。
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暖炉もある。火を見る事で、生きる力も燃やす。
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それは、広義の意味で、広告会社が持っているデザインの力やノウハウを、「医療」という領域にまで広げる、ということ。
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次の事例。Remmというブランドで展開するホテル。
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知っている人も多いかもしれないが、このホテルは、「眠り」にフォーカスしたホテルだ。これは、ビジネスホテルを利用する人の大半が、ホテルでは寝るだけである、という実態に基づいてつくられたもの。シャワーの位置だったり、ベッドの作りだったり、建築的にも、内装的にも、眠りに特化したものになっている。これは、生活者に対しての知見を持つ広告会社が、その力を建築という分野に伸張した結果、生まれたアウトプットである。

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次に見たのは、Yahooのさわれる検索。写真がすくなくて、恐縮だが、ケースフィルムが流れた後、会場に割れんばかりの拍手が起こる。さわれる検索の場合、テクノロジーという知見を教育に適用することでできた新しい仕事だ。
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今見た事例は、伝統的な広告領域の外で、それぞれ新しい事例を生み出した。DSC_0132
そこから、ひもとけるのは、2024のエージェンシーに求められるのは、Hybrid Expertise。つまり、一つの専門領域ではなく、2つ以上の専門領域をハイブリッドさせる、ということ。
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次の事例。そして、組織論への話に。映画やアニメなどのコンテンツ。
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これを広告と絡める。日本ではおなじみのビジネスモデルだが、海外のエージェンシーからすると、確かに新鮮に聞こえるものなのだろう。
DSC_0135 次は博報堂ケトルの話に。博報堂ケトルは、いわゆる雑誌などのコンテンツを作ったりもしている。博報堂ケトルの20%の利益は、雑誌などの、起業により、出しているらしい。B&Bという本屋をつくったりした。Book & Beerの略で、お酒を飲みながら、本を読める。本を売るだけでなく、そこでセミナーをやったりして、そこでコミュニティーをつくり、利益を上げている。DSC_0136
そして、また次の事例。スポーツをデータで分析する。Data Analytics + Sportsである。それを、Advisory Businessにしている。社内ベンチャーとして、スタートしてる。

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他にも、12のスタートアップが博報堂にはある。2024には、United Ventureに成っている、とのこと。ベンチャーのようなスピードのある、少人数での組織をたくさんつくり、動いていく。
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そして、最後のトピック。2024のエージェンシーのミッションとは。それは、”life design”であるとのこと。DSC_0139
たとえば、この事例。”Rice Code”田んぼに、異なる色の米を埋めることで、絵を描く、というもの。
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ここで、育てた米は、オンラインで買えたり、社内の社食のご飯に使われたりする。エージェンシーが畑を持っている、ということがすごく受けていた。
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つまり、これは、Digitalと農業を合わせた新しい、領域なのだ。
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また、最後に、「みらいにほん」という事例。家を発明し直す。日産リーフを使うことで、独立したエネルギーを供給できる家。人の生活を作り直す。
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最後に。
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アインシュタインの言葉を引用。想像力を使うことで、未来が、ちょっとだけ見える。
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個人的には、博報堂らしい「生活者発想」が感じられるプレゼンだった。電通だと、「総合力」という観点から施策のレバレッジをきかせようとすることが多いが、博報堂だと、United Venturesなど、個の力を重視しているように感じた。

また、少し思ったのは、カンヌの会場に来ているエージェンシーの多くは、電通や博報堂のような、いわゆる「日本型エージェンシー」の規模を持っていないところがほとんどなので、良くも悪くも、「自分のエージェンシーではこういうことはできないな」と感じる人が多く居そうな気がした。むしろ、日本のユニークネスや強みの一つとして認知されただろう。

カンヌでのスピーチもさることながら、SXSWとかでも発表すれば、「エージェンシーの役割とは何か?」と自問自答する人がSXSWのほうが多いので、よりおもしろがって聞いてもらえたトークだと思う。

自己啓発型セミナーが多い、カンヌだが、ソリッドなプレゼンで、面白かった。(えらそーですね、すみません。)