火曜日の夜、カンヌのオープニングガラ(=カンヌ主催者がホストするパーティみたいなもの)でうろうろしていたら、たまたまメディア部門の審査員の人と偶然話す機会があった。
恐縮しながらも、「カンヌで賞をとるにはどうしたらいいか、僕にアドバイスを何かひとつ授けてくれませんか?」と聞いてみた。そのとき、審査員が言っていたのは、「ケースフィルムに全力を尽くせ」だった。
そう、カンヌは、エントリーしている施策自体もさることながら、ケースフィルムの戦いの場でもあるのだ。各カテゴリーのショートリスト以上の作品を観ているが、これまで何百本のケースフィルムを見てきた。審査員であれば、もっとたくさんの数を見ているはずだ。
当たり前の話だが、やはり、ケースフィルムの出来具合、明解さが、審査の場面で重要になってくる。
明解さとは何か?
メディア部門の審査員がそのとき言っていたアドバイスは、「アイデアをケースフィルム全体のなかで、40〜50秒以内に提示する」というものだった。
自分なりの解釈だが、実例を見ながら、ちょっと検証してみた。
AUDIの”INSTANT VALUATION BILLBOARD”
メディア部門ショートリスト。クルマをOOHの前におけば、クルマの値段を査定してくれる、というシンプルなアイデアの事例だ。ビデオを見出して、アイデアを理解して、「ピンとくる」という状態が、17秒目にぐらいには既に来ている。
だが、カンヌでショートリストまで残っている事例の中には、いわゆるソーシャルグッドな事例も多く、ソーシャルグッドな事例は、社会的/文化的/政治的状況を説明するのに、時間がかかるので、なかなか難しいと思うかもしれない。
では、こちらを見てみよう。
ANZの”GAYTM”
ANZ GAYTMs Case Study PR from Eleven PR on Vimeo.
2014年アウトドア部門のグランプリだ。LGBT活動をサポートするために、ATMをLGBT仕様の見た目にかえる、というすばらしいキャンペーンなのだが、コアアイデア(WE TURNED ATM TO GAYTM!とでかでかと出るところ)は40秒時点で提示されている。
では、技術的に難しい仕掛けのものはどうだろうか?説明に時間がかかってしまうのではないか?
NIVEAの”PROTECTION AD”
2014年モバイル部門のグランプリだ。「雑誌の紙を切り破って腕に付ける」という部分の説明に行くまで、約44秒。これも50秒ルールを守っている。
ケースフィルムは2分まで、というのがカンヌ出品の際のルールなのだが(これ以上でも出品できなくはないが)これまで、自分は、施策が良くて、ケースフィルムは2分ぐらいだったら大丈夫だろう、という緩い意識でいたが、審査員の「ケースフィルムちゃんとやれ」という言葉を聞いて、ケースフィルムの質の重要性をより理解した。当たり前だが、大事になことだ。
その言葉を授けてくれた審査員に「明日からは何するんですか?」と聞いたら「パリに行くわ」と言って、颯爽と去って行ってしまった。