日米間のエージェンシーでのアイデア出しのアプローチが違って面白かった〜その1〜

 

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しばらくぶりの更新となった。

実は仕事で、ここ数日、ニューヨークに出張に行っていた。

一緒に仕事を行っている、クリエーティブエージェンシーとの打ち合わせのためだ。

現地で、チームメンバーと共に何度かブレストを行ったのだが、そこでのアイデアの出しのプロセスが、日本のそれとは違っており、大変参考になったので、個人的に面白かったポイントをメモ代わりに書いておく。


【面白かったその1:キックオフミーティングは、営業、クリエーティブ、ストラテジー、みんなやってきて、ECDがオリエンする】

クリエーティブ開発を行うにあたり、キックオフミーティングを行うのは、もちろん日本と同じで、クリエーティブに限らず、営業やストラテジストも入るのも特段珍しい事ではないが、キックオフの説明を行うのがECDというのが、興味を引いた。

ECDが、きちんと概況の説明から、ブリーフの説明を詳細に行い、どんなアイデアを求めていて、どんなアイデアは避けるべきか、明確な指針がくだされるのだ。

また、キックオフのミーティング自体も非常に短い。説明と議論を含めて、合計1時間弱ぐらいで終わって、すぐに解散となる。

日本でも、キックオフミーティングの段階で、ECDだったり、CDが指針を示すのはもちろんだが、ECD自身がキックオフ資料を自分で作り、そしてそれを説明しているのは、いつもの日本で慣れている作業フローとはまた違った感覚を感じ、新鮮だった。

【面白かったその2:2〜3人ぐらいの細かいチームに「分解」して、アイデア出しを進める】

キックオフミーティングの際、日本とはまた違う新しいメソッドに遭遇した。

一通り、キックオフミーティングでの説明が終わった後、急に「じゃあ、今回のミニチームなんだけど…」と切り出すCD。一人で案出しをして、アイデアの持ち寄りをするのかと思っていたら(日本ではそうする事が多いと思う)、キックオフミーティングに参加している10人ぐらいをさらに2〜3人で構成される細かいチームに分解して、その中でアイデアを相談し合って、アイデアを考えろというのだ。

私が一緒に組んだのは、デザイナー、ストラテジスト、そして私、の3人だ。意図的に、役職が違う人たちとのチーム編成になっている。

バラバラなチームを「わざと」組ませてアイデア出しをさせるところに、日本との違いを感じ、面白さを感じた。

【面白かったその3:一番最初の持ち寄りの段階では、「文字」だけでアイデアを書き出す】

ここが、一番面白く感じたポイントかもしれない。アイデアの各々で考えた後、みんなで集まっていわゆる「持ち寄り」を行うのだが、このときのアイデアの持ってきかたが日本と決定的に違った。

ちなみに、日本では一枚の紙に案をまとめたものを「ペライチ」とか「一葉一案」と言ったりするが、アメリカでは”One Sheeter”と言うらしい。この言葉を知っているだけで、グローバルに明るいクリエーティブとして、通ぶれるかも?!(笑)

さて、この”One Sheeter”なのだが、文字だけでしか書かれていない。内容は、

  1. インサイト
  2. アイデアの内容
  3. それがどう機能するか

の3点が書かれているだけ。この、3点が書かれたフォーマットを事前にメンバーに配布し、持ちより参加者は、このフォーマットで書かれた案をひたすら壁に貼っていく。

私は、日本でのアイデア出しの方法論に則って、「文だけじゃ、ぜってーみんな、わかんねーだろ」とせっせと、考えた案に対して、一枚一枚ビジュアル(いわゆる「ポンチ絵」)も持っていったのだが、打ち合わせで披露される事はなかった。

なぜか。

というか、そもそもなぜ日本のアイデアの打ち合わせでは、「絵」をつけるのか。そこには、とても、「おもてなし的」な職業意識が働いているからだと思う。

つまり、案を出す側のスタッフが、聴いている側のスタッフに対して、「より分かりやすく」「より簡易に理解してもらえるよう」に、絵を付け足し、案の内容を分かってもらうために、そして、後からどのアイデアがどうだったか、分かりやすくするために絵をつけるのだ。

だが、この文字だけのOne Sheeterの場合、根幹の成り立ちから全く違う。

「わざと」案を分かりにくくしているのだ。

アイデアのコアを文字だけに限定し、ビジュアルがない状態で案を説明させる事でそのアイデアはシンプルなのかどうか、文字だけの説明でもきちんと通用するのかどうか、判別をしているのだ。

アイデアをプレゼンする際、解像度というか、粒度を合えて下げる事で、案の説明をしている段階でセレクションがある程度はじまるのだ。


 

どちらの手法が良い/悪いという事は全くなく、チームやメンバーにあう手法を適用すれば良いと思うが(参照記事:R/GAのブレスト方法)こういったアプローチの違いを知る事は、視野が広がって、大変に興味深い。

…さて。だいぶ長くなってしまったので、他に気になった事は次のエントリーとしてまとめようと思う。

カンヌ2014:U2ボノ&Apple ジョナサン・アイブ対談最終セミナー

あっという間に、カンヌ最終日。そして、最終セミナー。
そして、最終セミナーにふさわしいカード。アップル上級副社長 Sir Jonathan Ive氏とU2 BONO氏の対談。モデレーターは、VICEマガジンのCEO, Shane Smith氏だ。

このセミナー、まず、人がすごい。Sarah Jessica Parkerやう、Sir John Patrickなどのセレブリティーが参加してたセミナーもすべて含め、これまで出たどのセミナーよりも人が多かった。私は、1時間半前から、別のセミナーに参加して、そのまま席を陣取った。

DSC_0123まず、前列すべてにカメラマン達が陣取り、前が見えない。最前列の人はちょっとかわいそうだった。右がBONO、中央がShane Smith、左がSir Jonathan Ive。BONOはとりあえず、グラサンをかけている。ロックスター感満載。

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今日の対談のメインテーマはREDプロジェクトについてだ。REDプロジェクトは、アップルとの関連が一番有名だが、2006年にU2のボーカルであるBONO氏によって立ち上げられたプロジェクトだ。目的は、アフリカのエイズを撲滅すること。アップル以外にも、上のスライドにある企業と様々な形でコラボを行い、プロダクトの売り上げから、エイズ撲滅のために寄付を行う、というものだ。アップルだと、赤いipodとかipadが有名だ。

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モデレーターのShane Smith氏が話を振りながら、Bono氏とJonathan Ive氏から話を引き出していくのだが、BONO氏はすごいですね。自分のプロジェクトに本当に情熱を持っているのがこちらにも伝わってるように語るし、ちょいちょい、ジョークを挟んでくれるのも、気が利いていて格好いい。

昔、Steve Jobs氏とBONO氏がREDプロジェクトでの打ち合わせをしているとき、BONO氏から「アップルロゴにかっこ()をつけさせてくれ」と申し入れたときに、けんもほろろに断れたらしいのだが、※Redプロダクトは、かっこ()がコンセプトを表す大事なキービジュアル。

“So when Steve told me that nothing interferes with the logo, I just thought, well, cram up your phone in the ass…and that was before the iPhone by the way guys!”
(スティーブに、アップルのロゴの周りは絶対に不可侵だ、と言われたとき、こいつのケツにこいつの電話をぶっ刺してやろうかと思ったよね・・・あ、ちなみに、これ、iPhoneの前の話ね!)

会場大受け。とにかく話が面白い。芸人の話聞いてるみたいだった。

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ちなみに、さらにすごいなと思ったのが、この上の写真。BONO氏の上にREDプロダクトのiPadがあるのだが、いきなりケースを外して一言。

「みなさん、これちょっと見てくれる?REDのロゴがね、iPadのケースの後ろにあって全然見えないの!」

「ジョニー、どうよ、これ?直そうよ!ね!」

といきなり、Jonathan Iveに直談判。(むしろ軽くディスってる)。が、そこはJonathan Iveも大人。ちょっと憮然としながらも、

“Modesty is the Apple way…”
(控えめであることは、アップルのやり方なんだよ・・・)
とぼそっと一言。

かっこいい。

そして、会の後半。ここでもさらにびっくりした。いきなり、通路席に赤いバケツみたいなのを持っている人達が現れた。「あれ、寄付金でも募るかな?」と思ったら、これに名刺を入れて、「俺たちと一緒にREDプロダクトをつくろう!」とBONO氏が言い出した。

さらに、「あと、なんか今いいアイデアでたら、発言してさ、俺に教えてよ!」といいだして、「会場総ブレスト大会」/「私、これやります!大会」になった。

中南米の銀行の担当者が「RED銀行口座」をつくることをその場で確約したり、なんか、ネットのドメイン扱ってる人が、世界で一つしか無い .hiv というドメインがあるらしく(?)、それをBONO氏に寄付するとか言い出したり。新手の商法みたいな事になってた。(私も一つ思いついたことがあるにはあったが、あまりにびっくりして戸惑って発言できなかった・・・)

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もう、会場総立ち。音楽のライブでもないのに、ライブ会場みたいになってた。すごかった。

カリスマはこうやって、人を動かして、世界を変えていくんですね。

 

・・・と、そんなわけで、私の初カンヌはこれで終わりました。事例もたくさん見たし、セミナーもたくさん聞きました。いろいろな国の人達と知り合いになり、話し込みました。そして、自分がその会場の中で、なにもコントリビュートできることがないのがただただ、悔しかったです。仕事をするのではなく、「素晴らしい」仕事をする。真摯に研究を怠らず、ゴールを達成するための正しいアプローチを心がけていれば、あるいは、達成可能な事かもしれません。仕事を不在にしてしまい、たくさんの人に迷惑をかけてしまっておりますが、日本に帰国して頑張ります。(カンヌに来てから、何回がんばるという言葉を口にしたか、、、)

カンヌ2014:電通セミナー

博報堂セミナーについて、書いたので電通のセミナーについても書くことにする。

今年の電通のセミナーのタイトルは、”Augmented Human”だ。
イントロで、映像が流れるのだがトリッピーで格好いい。紹介できないのが残念だ。

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本日のメインスピーカーは、佐々木康晴氏。(僕の上司だ。)

開始後早々の発言。
「今年はパフュームこないんだ、ごめんね(笑)」
と軽くジョークをかまし笑いをとり、
「そして、今日はアドバタイジングの話はしません。」
と。

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よく、ARだとか、言われるが、まずはAugmentの定義のおさらいから。「何かを付随して付け足す」みたいな意味だが、もっとシンプルに言うと、このスライドに書いてあるとおり、何かをよりすごくしたり、キャパシティーを高めたりするということだ。

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そして、
今日のセミナーのテーマである”Augment Human”だが、Augmentするのは、Realityではなく、Humanである。テクノロジーの新しい使い方。
ここ最近の電通がつくったものを一通りご紹介。
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NEKOMIMI.
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Living Wallet. 財布の可愛い動きがリスナーに受けてた。

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次に、佐々木さんから同じく本日のプレゼンターである、東京大学大学院情報学環の暦本教授にバトンパス。最近の研究と共に、Augmented Humanの考え方に触れてもらう。

スライドの写真が無くて恐縮なのだが、人が道具を使うときを例にだして説明をしてくれていた。たとえば、マウス。OSというものに対して、マウスがインターフェースとなり、OS上の「ポインター」として、自分の動きをAugmentしてくれる。

他の道具でも同じだ。たとえば、包丁。包丁を握る「柄」の部分がインターフェースとなり、刃が「切る」、という行為をAugmentし、可能にしてくれる。

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すこし、考え方を拡張して、Jack Inという別の観点からAugmentを考えてみる。Jack Inとは、マトリックスとかであった、機械の中に没入する、という状態ですね。この後の例で出ていたのが、ドローンにカメラを装着して、その映像を人間にOculusなどで送る、というもの。そうすると、第三者視点で、ジョギングができる。

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サッカーなんかも、より面白い視点でプレーできたり、それを他に共有できたりするようになる。

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トピックはまたすこし移り、今度はスポーツの話に。

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スポーツをAugmentするとして、そのときにカテゴリーが3つほどに分かれる。トレーイング、観戦、そしてプレーするときだ。

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たとえば、トレーニングするとき。Swimoidとよばれる、スライドの下にうつってるマシーンだが、こいつは、泳いでいる人の下を「伴泳」し、鏡のようにその人のスイミングフォームを見せてくれる。泳いでいる人も、コーチも、実はなかなかフォームについて把握できないので、このように、別の視点から見れるようにすることで(例えば、コーチが地上からこのSwimoidが把握している映像にJack Inすることで)、トレーニングという領域をすこしAugmentする事ができる。

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次は、スポーツを観戦するときのお話。良く、GoProなどで自分目線で撮った映像がアップされていたりする。

DSC_0027これは、すなわち、スポーツをしている人に観客がJack Inするということともいえる。そう捉えると、もっと、いろいろな面白い可能性が広がってくる。

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たとえば、このヘッドギアのようなマシン(スライド左側)。装着している人の視点を360度確保できるという優れもの。Oculusなどを使えば(スライド右側)、その人の視野を「再体験」できるというわけだ。

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ここで、教授が実際にデモで見せてくれた。

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たとえば、それを大車輪をしている体操選手に付けてみる。そうすると、体操選手の演技を、体操選手側の視点から見れる。ぐるぐる回って、気持ち悪くなるかもしれないので、プログラム的に処理をして、「視点を固定して」演技を見る事も出来る。

このあたりから、聴衆から感嘆の声が漏れはじめる。そして、隣の人から、「え、すごい、どういうこと?」という声が上がってので、自分が知った風な顔して「いや、だからね、Augmentされてるわけ、わかる?」と解説をする。

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そして、次にプレーするときの話。紹介されたのは、HoverBallというもの。ドローンが中に内蔵されたボールだ。

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そうすると、何が実現できるかというと、たとえば、大人と子どもがキャッチボールして遊んでいる時を考えると、子どもがキャッチするときだけ、キャッチできるようにスピード落とす、ということも可能になる。

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他にも、ボールに「あり得ない動き」 をさせたりする事ができて面白い。

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実際にデモを見せて頂く。投げたら帰ってきた。フォースの使い手みたいだった。

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スポーツをエキスパートのものだけにするのではなく、本当の意味で、「みんなのもの」にできる可能性があるものなのだ。

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ここで、Dentsu Lab Tokyoのご紹介。そこでのプロジェクトについての話になる。

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そして、満を持して、太田選手の登壇!プレゼンに熱気がこもっていて、すばらしかった。ジェスチャーとか、相当練習したんだと思う。その徹底的な姿勢に感動した。

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太田選手からは、2020東京オリンピック招致の時に話題になっていた、フェンシングをセンシング技術を使って可視化する話があった。

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端から見て、フェンシングは、いったい何をやっていて、そもそも、どっちがかったのかすら、よく分からん・・・ということで、それを様々なセンシング技術を駆使し、みんなにも分かるようにすれば、楽しいよね、という話。

実際に、太田選手の「突き」を実演してもらい、その場で剣先をトラッキングする、というデモも見せてもらった。

このあたりでも、リスナーはみんなびっくりしてるようだった。

そして、映像だったので、残せなかったが、国立競技場プロジェクトの紹介映像も最後に流れた。

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最後に、佐々木さんによるシメ。機能だけではない。技術だけではない。エモーションを追求することで、より大きな課題を解決していく。
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プレゼンター3人。

プレゼンが終わったときは、会場から割れんばかりの拍手。博報堂セミナーのエントリーでも書いたが、なかなか他のエージェンシーにはまねできないような日本の仕事のやり方や、強みが明解に伝わったのではないかと思う。(隣にいた人に話を聞いたら、「日本すごいわね、私たちのエージェンシーじゃ、絶対できないわ」といわれた。)トピックの内容も具体例やデモがふんだんに用いられたので、すごく良かった。

プレゼンが終わった後、周りの全然しらない人達に、どや顔で「あれ、僕の上司なんすよ」と触れ回った。別に、自分自身は何もしてなかったけど、自分の会社が誇らしかった。が、また同時に、特に良い仕事をしているわけではないので、悔しくもある。来年こそは、なにかプレゼンできる立場になりたいと強く感じた。

がんばろう。

カンヌ2014:勝てるケースフィルムをつくるヒント

火曜日の夜、カンヌのオープニングガラ(=カンヌ主催者がホストするパーティみたいなもの)でうろうろしていたら、たまたまメディア部門の審査員の人と偶然話す機会があった。

恐縮しながらも、「カンヌで賞をとるにはどうしたらいいか、僕にアドバイスを何かひとつ授けてくれませんか?」と聞いてみた。そのとき、審査員が言っていたのは、「ケースフィルムに全力を尽くせ」だった。

そう、カンヌは、エントリーしている施策自体もさることながら、ケースフィルムの戦いの場でもあるのだ。各カテゴリーのショートリスト以上の作品を観ているが、これまで何百本のケースフィルムを見てきた。審査員であれば、もっとたくさんの数を見ているはずだ。

当たり前の話だが、やはり、ケースフィルムの出来具合、明解さが、審査の場面で重要になってくる。

明解さとは何か?

メディア部門の審査員がそのとき言っていたアドバイスは、「アイデアをケースフィルム全体のなかで、40〜50秒以内に提示する」というものだった。

自分なりの解釈だが、実例を見ながら、ちょっと検証してみた。

AUDIの”INSTANT VALUATION BILLBOARD”

メディア部門ショートリスト。クルマをOOHの前におけば、クルマの値段を査定してくれる、というシンプルなアイデアの事例だ。ビデオを見出して、アイデアを理解して、「ピンとくる」という状態が、17秒目にぐらいには既に来ている。

だが、カンヌでショートリストまで残っている事例の中には、いわゆるソーシャルグッドな事例も多く、ソーシャルグッドな事例は、社会的/文化的/政治的状況を説明するのに、時間がかかるので、なかなか難しいと思うかもしれない。

では、こちらを見てみよう。
ANZの”GAYTM”

ANZ GAYTMs Case Study PR from Eleven PR on Vimeo.

2014年アウトドア部門のグランプリだ。LGBT活動をサポートするために、ATMをLGBT仕様の見た目にかえる、というすばらしいキャンペーンなのだが、コアアイデア(WE TURNED ATM TO GAYTM!とでかでかと出るところ)は40秒時点で提示されている。

では、技術的に難しい仕掛けのものはどうだろうか?説明に時間がかかってしまうのではないか?

NIVEAの”PROTECTION AD”

2014年モバイル部門のグランプリだ。「雑誌の紙を切り破って腕に付ける」という部分の説明に行くまで、約44秒。これも50秒ルールを守っている。

ケースフィルムは2分まで、というのがカンヌ出品の際のルールなのだが(これ以上でも出品できなくはないが)これまで、自分は、施策が良くて、ケースフィルムは2分ぐらいだったら大丈夫だろう、という緩い意識でいたが、審査員の「ケースフィルムちゃんとやれ」という言葉を聞いて、ケースフィルムの質の重要性をより理解した。当たり前だが、大事になことだ。

その言葉を授けてくれた審査員に「明日からは何するんですか?」と聞いたら「パリに行くわ」と言って、颯爽と去って行ってしまった。

カンヌ2014:Saatchi & Saatchiセミナー

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超人気セッションという呼び声が事前から高かった、Saatchi & Saatchiセミナーに行ってきた。セミナーのタイトルは”Feel the Reel.” サーチ&サーチの映像ディレクターの作品を紹介する、というセッションだ。

実は、ここ数日カンヌのセミナーに出ていて、意外と「ハズレだな・・・」と思うことが多かったので、ショートリスト作品ばかりを昨日は見ていたのだが、このセミナーに関しては、複数の人から「すごくいいらしい」「絶対行った方がいい」「去年もすごかったみたいだから」という声が多かったので、これに関しては行くことにした。そして事前の高い呼び声を裏切ることなく、会場には、セッション40分前にもかかわらず、長蛇の列ができていた。そして、このセミナーは、他のセミナーと比べて、だいぶ気合いが入っていた。

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まず、入場するとナースのコスプレをした人がいる。

なぜ、ナースなのかというと・・・。
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入場するときに、こんなものを渡されるのだ。腕に付けて、脈を測定するのだ。映像を見ながら、興奮しているかどうかのbiometricデータを取得しようというのだ。凝っている。

ちなみに、こんな感じで映像を見ながら、リアルタイムにみんなのbiometricデータが反映される。会場が暗かったので、ブレブレなのが申し訳ないが・・・。
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オシャレである。

普段は、テクノロジーのことばっかりやっているので、純粋に面白い映像コンテンツを見る、というのはなかなか新鮮だし、普段触れる機会の少ないものやことに触れるのが大事だと思う。

紹介してもらった映像作品は、CM/ショートフィルム/Music Video/実験映像など、多岐にわたる。滅茶苦茶本数があったので、自分が好きだったやつを載せることにする。

“Moving On”

全編「糸」で表現されているMV。大切な人との別れ。高いクラフトを通して、見ていると泣きそうになってきた。

“Beans”

豆のスープ缶のCM。コピーがすごいね。”Not for Astronauts.”って。

“Cybersmile #dontretaliate”

ネットでのいじめについてのCM。徐々に追い詰められていく様子が、縄で表現されており、うまいと思う。

“Conference Call in Real Life”

テレカンあるある。笑った。

“The Sunday Times Icon”

新聞のSunday TimesのCM。文化欄にいろいろなことが載ってるよ!ということを訴求するCM。

“It’s Not Porn”

SATCとか、割と下世話な番組をよく流しているHBOのCM。俳優/女優の卵達が友達に、「ねぇねえきいて!役が決まったの!」と話をしていて、どんな役かと聞いていると、それはAVそのもの。友達が、どん引きする中、「ねぇ、それ、AVだよ・・・」と言うと、「違うの、HBOだよ!」「マジ!」「やったじゃん!すげえ!」と言う反応に変わる。

“Grab Her”

ミュージックビデオ。重力を逆転させる男(?)が巻き起こす珍騒動。

“Breach Jack”

Breach / Jack from riffraff films on Vimeo.

これは、なんて説明したらいいか分からんが、くるっとりますな。単純なメロディーや、仕組みにつくって、それを応用しながら映像をつくっていく。好きな部類です。

また、面白いものがあったら、書きます!

カンヌ2014:Future Lionセミナー

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今日は、レイ・イナモトさんがスピーカーをつとめるFuture Lionのセミナーに行ってきた。

前日に、主催者がホストする公式のパーティーがあったので、いろいろやってたら、レイさんを発見!よっしゃ、話しかけに行こう!ってことで、白々しく、何も知らない振りして話しかけて、「あ!あのレイさんですね!失礼しました!」みたいなちょっとした寸劇をやっていたりしたのだが、「実は今やってる仕事で迷っていることがあって、かくかくしかじかこんな内容なんですけど、どう思いますか?」とせっかくなので聞いてみたところ、「それだったら、明日セミナーやるから、聞きにきなよ!」と教えて頂いたので、行ってきた。

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Future Lionとは、9年前からAKQAが主体となって毎年やっている、学生向けの新人発掘セミナーみたいなプログラムだ。お題に対してソリューションを出し合い、その内容を競う。カンヌに対する批評でよくある一つに、「カテゴリーに分けることに意味はあるか?」というものがある。Future Lionはその批評に対するアンチテーゼという意味合いもあり、カテゴリーは特にない。参加者は、アウトプットをカテゴライズせずに、自由にソリューションを考えられる。AKQAは、これを毎年無償でやっている。かわいらしいライオンがマスコットキャラだ。ちなみに、今回は40超の国からの参加で1700以上の応募があったとのこと。メインのカンヌカテゴリーよりも多くのエントリーがあるような部門になりつつある。一番応募が多いのは、アメリカとイギリスで、信じられないことに、日本の応募数は「25」だそうです。せっかくのプログラムなのに、本当にもったいない・・・。

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肝心のお題だがだが、きわめてシンプル:
「5年前には不可能だった方法で、ブランドとターゲットを結びつけよ。手法/ブランドは不問。」
どうだろうか?わくわくしないだろうか?(ってか、自分も応募できたらしたかった)

今年は、以下のエントリーが入賞していた。

Google Gesture

最近のガジェットで、自分の筋肉の動きで、ジェスチャーを検知できる、というものがあるが、これをGoogle翻訳とつなげて、手話をスピーチに変換する、というもの。きちんと、既にあるテクノロジーを使っているし、できそうな感じもする。が、ありそうでなかった、というところが憎い。

Donate by Update

これも非常にうまいと思った。Redプロダクトが一時期流行ったが、既にアップル製品を持っている人達に対して、以下に買う意味をつくるか?というのが出発点。だとするならば、製品を買わせるのではなく、OSのアップデートを課金することで、寄付を集めるようにしよう、というもの。問題に対してのソリューションが、鮮やか。

Do Zero For Climate Change

アイスを保存するのに、不必要に温度の低い冷蔵庫である必要は無い。そこに着目したネタ。

HEARt Me

子どもの心臓の不穏な動きをウェアラブルTシャツで検知し、親のスマホに情報を送信。それだけでなく、心拍数のデータを研究目的で使うこともできる、というアイデア。

Passion is Power

深刻な電力不足に悩むブラジルで使うことを想定した事例。スタジアムに、衝撃で発電ができるマットを導入。ワールドカップの実施が、電力不足の解決に繋がる、という昨今のブラジルのワールドカップのデモを解決するのに役に立ちそうな事例だ。

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ちなみに、受賞した作品のアイデアを考えた学生達が壇上に上がっていくのだが、そのときに男女のペアでコンビを組んでいたグループがいて、男が女にキスをして上がっていったやつがいて、格好いいことこの上ない。負け組気分をこれ以上にないほど増長された。

・・・明日から、がんばろう。

と、そんなことはさておき。
レイさん、最後にこんな事をそういえば言っていた。

“Technology should function to remove friction.”
“And both the brand and the technology should function to serve the humanity, if not to change the world, but to make a dent in the universe.”

物事を難しく、大変にするのはテクノロジーの本意ではない。
そして、究極的には、ブランドを通じて我々がつくるものが、少しでも世界をよくするようにする。

もしかしたら、自分の仕事のヒントはここにあるのかもしれない。

カンヌ2014:課題解決のために「ハック」した事例5選

クリエーティブ部門に移ってから、いろいろな人に体系的にやれと言われていることがあり、それはとにかくたくさんの事例を見て、研究する事である。今回、カンヌに来ているのも、浴びるように事例を見る事が、目的の一つだ。

事例をいろいろ勉強するようになり、何となく自分の好きな「カテゴリー」があることに気付いた。

「こんな簡単なやり方があったのか!という手法。「ずるい!」とさえ思えてしまうような手法。ある種、「ハック」するような方法に、自分としては強く惹かれるところがある。

まとめられれば、他のエントリーで、またかければと思うが、会場で審査員に話を聞いてみたりすると、賞をとる事例は、とにかく「アイデア」の良さが繰り返し語れるのだが、自分が好きなハック的手法にはこのアイデアの要素が強く内包される。時には狡猾にすら思える、予想を裏切る手法で、見事に目的を達成し、課題を解決する。また、その裏切りのプロセスが、きわめて人間的なので、コミュニケーションに接近した人も、「あ、こりゃやられたな」という風になる。これはアイデアである。自分も、こういう事例をやってみたいと思う。

カンヌで、様々な受賞作品を観ながら、そんな「ハック」的な作品があったので、自分がこれまでみたもののいくつかをここで紹介できればと思う。

Brother In Arms “Bank Job” 〜①銀行の振り込み通知をハックする〜

Brother In Armsはチャリティー団体だ。寄付を募るために、企業に寄付のお願いをする必要があった。そこで、オンライン送金フォームというプラットフォームを逆手にとり、こちらから寄付をしてくれそうな企業に「勝手に」お金を送金する。そのときに、備考欄にちょっとずつメッセージを記載し、何回も送金すると。送られた側からすると、大量の少額の入金があり、しかもそれを続けて読むとメッセージになっている。そして、すごいのは、ただメッセージを送るだけでなく、送られたお金がエラーとして出てくるので、先方はお金を返さなければならず、返すには電話をするしかない。ある状況を逆手に取り、向こうの行動を無理矢理規定する。スト2のハメ技のようなやっかいさだ。これは、まさしくハックだと思う。

“Phubbing” 〜②言葉をハックする〜

オーストラリアの国語辞典の事例。「言葉とは変わり続けるものだ」ということを訴求するために、考え出された事例なのだが、やり方がえげつないぐらいすごい。何をしたかというと、国語学者や、クロスワードパズル師などの、言葉に関するエキスパートを集めて、「スマホに夢中になって、人の話を聞かない」という動詞はどんな言葉か?ということを議論。結果、”Phubbing”という言葉を開発。そして、この言葉が、実際に動詞として人々の間で浸透。「言葉をつくる」という荒技をどうやってやったのか詳細は分からないが、言語をハックする、というアイデアがすごい。

“Removal Happens” 〜③Youtubeの仕組みをうまく使う。〜

とある、離婚相談に強い、法律事務所の広告。ちょっと、悲しいというか、何とも言えなくなってしまう広告だ。700人のクライアント候補に、メールを送るのだが、そこにあるのは、ありがちな新婚カップルの結婚式のYoutubeリンク(とその動画のサムネール)。なんだと思って、動画を再生しようとすると・・・。

“#Sochiproblems” 〜④時事ネタを逆手に取る〜

ソチオリンピックは、競技もさることながら、開催直前になってもジャーナリストが使うホテルの設備などが全くできておらず、あり得ないサービスの数々がソーシャル上で話題になったオリンピックでもあった。会場に到着した記者達が、「ホテルの蛇口ひねると茶色い水が出てくるぜ!ありえねー!」とか「部屋の予約が取れてなかった・・・ってか、むしろ部屋自体が完成してないんだけど!!」といったようなツイートがありえなさすぎて世界中で面白がられてバズっていたのだが、この状況をうまく逆手に取ったのがAirbnb。そんな悲壮なツイートをしている記者達に対して、逆にツイートを送り、Airbnbだったら、全然快適だったのに、残念だね!というツイートを逆に送りつける。話題になっている時事ネタにうまく乗っかって、逆に自分たちの話をしてしまう。非常にうまい方法だと思う。

“Incomplete Bios” 〜⑤大事にしたいプロフィールを利用する〜

これも、シンプルで非常に好き。子どもへの施策について言及しない政治家に対して、いかに政策を引き出すか。この事例では、政治家のwikipediaを編集。「子どもへの政策」という項目を対象の政治家のプロフィールに追加。そこをあえて、白紙にする事で、マニフェストに政策が欠落していることを訴求させる。やっていることはシンプルだが、メッセージとしては、強い。

たしかに、効果のほどはどうか?という事例も中には少なくない。だが、問としてあげられた問題に対して、どのようにエレガントに解決策を提示するか、ということについてはアイデアが確かに感じられるものばかりだと思う。

でも、なんだか、ハックハックって、バカみたいですね。

5月気になったトピック:「カンヌ2014直前、注目作品」

4月は何もアップロード出来なかった・・・。勉強の為に、「今のところ、他の広告賞は受賞しておらず、カンヌで注目されるであろう作品」をまとめてみた。「他の広告賞を受賞していない」というところがなかなかトリッキーで、必然的に、最近発表になっている事例が多い。あとあと、答え合わせをしてみると、面白いかもしれない。

No.1:“Speaking Exchange”

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概要:
ブラジルにあるCNAという英会話学校がクライアント。その学校に通う生徒の全員が、ネイティブスピーカーと英会話を練習するチャンスが全生徒にあるわけではないので、特製のツールを開発。シカゴにある老人ホームとのビデオチャットが行えるようになり、老人ホームの居住者が先生役となる。二人の間の会話は録画され、ビデオチャット終了後、プライベートリンクでYoutubeにビデオをアップロード。英会話学校の先生がチェックし、採点する。エージェンシーはFCBブラジル。ローンチ時期は2014年5月頃以前。

何がいいか:
Win-Winな状況を作り出し、クライアントだけで無く、同時に他の部分でのソリューション解決に繋がっているところ。会話が終了した後、先生にチェックさせる、という細かい仕組みまで設計できているのがすばらしい。ツールとしての有用度が高まる上に、トラブル回避にも繋がっている。また、英会話以上の、人と人のつながり、というエモーションの創出(ができているようにみえる)に成功しているところに、見ているこちら側も、すこししみじみしてしまう。Social GoodはSocial Goodでも、「しみじみSocial Good」な事例。

議論ポイント:
Social Goodは、やっぱり評価されるか。Social Goodなら、それでいいのか。

参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=-S-5EfwpFOk
http://adsoftheworld.com/media/online/cna_speaking_exchange

No.2:“Tattoo Artists against Skin Cancer”

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概要:
ビーチで使う日焼け止めなど、日差しが強い場所用のスキンケア商品を製造・販売。ブラジルの「ビーチ・カルチャー」の代表するブランドが、皮膚ガン防止のために一肌脱いだ。ブラジルで活躍する450人のタトゥー師に、皮膚ガンの予兆を見分ける医療知識の研修をオンライン授業として展開。タトゥーを行いに来た人に対して、皮膚ガンの早期発見・予防を促す。毎週18,900人の診察を行った計算に。エージェンシーは、サンパウロのオグルビー。ローンチ時期は、2014年5月以前。

何がいいか/悪いか:
「若い人でも皮膚ガンには実はなりやすい」という問題に「若い人の皮膚をよく見るタトゥーアーティスト」というコンタクトポイントをつなげたのはすばらしく、実際に課題解決にもなっていそう。どうやって、タトゥーアーティスト達にこのプロジェクトに参加してもらったかは謎。ブランドの「志」だけで、果たしていけたのかどうか。あとは、ブランドへの接着が少し弱いか。

議論ポイント:
前述の”Speaking Exchange”とは違いがあるとしたら何か。

参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=jeT3ekZzPpo
http://www.soldejaneiro.com.br/sol-de-janeiro
http://www.adweek.com/adfreak/sunscreen-brand-trains-tattoo-artists-look-signs-skin-cancer-157639

No3:“Honda H2O”

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概要:
Honda AustraliaのFCX(燃料電池電気自動車)のキャンペーン。FCXクラリティーが排出した水を売る、というキャンペーン。ローンチ時期は2014年5月以前。代理店はメルボルンのレオ・バーネット。

何がいいか/悪いか:
パッケージデザインが可愛い。というか、あのHマークの使い方はずるい。シンプル。正直、やられた感がある。が、以前、水を売るようなキャンペーンで似たようなのあったような気が。だが、水を使う理由の必然性が強い。いい話のようで、そうではない。デモンストレーション。

議論ポイント:
以前に、似ているエグセキューションがあった場合、やっぱり評価は下がるのだろうか。

参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=2tU6vio6xns
http://www.adweek.com/adfreak/honda-creates-bottled-water-brand-honor-vehicle-emits-only-drinkable-h2o-157619
http://www.bestadsontv.com/ad/62536/Honda-Honda-H2O

No.4:“Bulk Cat Litter Warehouse DM”

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概要:
クライアントは、Bulk Cat Litter Warehouse。猫用の砂を売っている会社。DMにキャットニップを塗って、DMを投函。すると、猫がじゃれるので、飼い主は思わずDMを拾ってしまう。エージェンシーは、バンクーバーにあるRethink Canadaというエージェンシー。2014年2月頃の事例。

何が良いか/悪いか:
動物倫理的にこれをしていいのかどうかよくわからないが、シンプルで、アイデア的にはわかりやすい気がする。ただ、シンプルすぎて、なんだか、強引で、反則をしているような気もする。動物を巻き込む、という手法は新鮮に思える。もだえる猫の絵は可愛い。が、肝心のデザイン自体は、あんまり可愛くない。

議論ポイント:
キャットニップで猫をだしに使う、という手法がありなのかどうか。デザインの良さとかは、全く評価に関係ない。

参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=Wj4ZJ52xn7c
http://www.adweek.com/adfreak/watch-cats-basically-hump-direct-mail-coated-kitty-crack-155799
http://www.bulkcatlitterwarehouse.com/

No.5: “3D ON THE ROCK”

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概要:
マシンで削り出した精巧な氷の3D彫刻でウイスキーのオン・ザ・ロックを作るという、プロジェクト。特に試飲ができたり、ということでは現在ない。エージェンシーは、TBWA/HAKUHODO。ローンチは、2014年4月頃。

何が良いか/悪いか:
シンプルでわかりやすい。やりそうで、誰もやってない、というところが絶妙。3Dプリントされた氷も美しい。サイトで流れている音楽も、ウィスキーを飲む際の「上がるテンション」「大人感」「おしゃれ感」を絶妙に表現。
SUNTORYのウィスキーは、映画”Lost in Translation”で、有名なので、日本国外の人にも、ブランド的親和性が高い。

議論ポイント:
が、これは、クライアントの何の課題を解決しているのか。「格好いいウィスキーのイメージの醸成」ということでいいのか。いったい、どういうオリエンがサントリーから来ると、こういうことになるのか。

参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=VAAnyUjiNGs
http://white-screen.jp/?p=37998

No.6: “The Protection Ad”

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概要:
ニベアの日焼け止めの事例。子供が海で迷子にならないように、雑誌を切り抜き、子供の腕に巻いておく。アプリで距離を設定し、その距離を子供が離れれば、アプリ側に通知をだす、迷子防止装置。2014年5月以前にローンチ。エージェンシーは、FCBブラジル(英会話事例と同じエージェンシー。強いな・・・。)

何が良いか/悪いか:
絶対、使わないと思うが、やってることは役に立つので良い。複数回使える、という説明も聞いていて良い。素材にこだわりを感じる。MORE PROTECTIONS FOR YOUR CHILDという言葉だけで、日焼け止めと、迷子防止とつなげているが、そこに多少の強引さはは感じる。

議論ポイント:
広くは使われないだろうが、役に立ちそうなものを、どう評価するか。

参考URL:
http://creativity-online.com/work/nivea-sun-block-ad/35203
https://www.youtube.com/watch?v=nZ532wkhHYs

No.7:“The girl that became immortal!”

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概要:
One Earthという環境団体がクライアント。プラスチックを捨てると、分解されるまでかなり長く、ほぼ永遠に残る(Immortal)ということから、着想を得ているキャンペーン。ゴミを捨てた人をターゲットにする。名前をこっそり聞く。そうすると、その人を茶化して、「~~~は不死(Immortal)になりました!」というパレードがいきなり始まる。びっくりしていると、メッセージがでてきて、「ゴミを捨てんな」「プラスチックは半永久的に残るんじゃ」と。2014年4月頃のキャンペーン。エージェンシーは、ミュンヘンのピュビリシス。

何が良いか/悪いか:
ロシアのParking Doucheや、Drama Buttonにひきつづき、個人的には好きなジャンル。まとめ動画を見るのが面白いキャンペーン。サプライズからの実は叱責だった、という落とし方がひどい。Tシャツ売ったりなど、細かいところも芸が効いている。が、やはり、いたずらはいたずら。ターゲットも、本物かどうか。そこに、ひっかかりがどうしても出来てしまうのが、残念か。

議論ポイント:
お客さんをこけにする広告はやっぱり、評価は高くないのだろうか。

参考URL:
http://www.gutewerbung.net/one-earth-one-ocean-girl-became-immortal/
https://www.youtube.com/watch?v=v60Q7Tbct34#t=69

No.8“TWEETING HONEY BADGER”

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概要:
ヨハネスブルグ動物園の新ソーシャルアカウントマネージャーに、ラーテル(Honey Bagder)が就任。Bluetoothが設置されたエージェンシーは、Hellocomputer。ローンチは、2013年11月頃。

何が良いか/悪いか:
かわいい。テレビ的にも伝播のきくことばにしているのが良い。が、本当に動物の言葉ではないので、そこに少し作為を感じてしまう。が、「世界初」と規定したのは良かったのかもしれない。ツイートが、笑えて面白い。(Justin Bieberのまねしたり、Selfieとったり。)

議論ポイント:
「うまく言い換える」(=動物がソーシャル担当になった、みたいなものいい)はどのあたりまで許容されるものか。

参考URL:
http://www.gutewerbung.net/johannesburg-zoo-tweeting-honey-badger/
https://twitter.com/zootweetslive

No.9:“World Under Water”

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概要:
温暖化で、北極の氷が溶けたら?その様子をGoogle Map Street Viewで再現。ほとんどの人が、内陸部まで、水が入ってくる、ということを分かっていない。場所を打ち込むと、どれだけ海面が上昇しているか見れる。

何が良いか/悪いか:
良く見慣れている風景が、どうなるか、を割と高い精度で再現したところに、新鮮みを感じる。が、「結局のところ、自分の近所がどうなるか?ということを見せているだけで、インフォメーションは少ない」という批判も多い。技術的には、いったいどうやっているんだろう?

参考URL:
http://www.adweek.com/adfreak/world-under-water-uses-streetview-visualize-flooding-climate-change-157636
http://worldunderwater.org/

No.10:“Alarm Cap”

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概要:
クライアントは、ネスカフェ。目覚まし機能付き、コーヒー瓶。明けると、止まる。ローンチは、2014年5月以前。エージェンシーは、メキシコのピュビリシス。

何が良いか/悪いか:
一見、デジタルデジタルしてないクライアントで、ここまで強引にやりきったのは新鮮。使えそうで使えないところもまた絶妙。

議論ポイント:
使えそうで使えないプロダクトの評価はどうあるべきか。

参考URL:
http://creativity-online.com/work/nescafe-alarm-cap/35446

Onlab Growth Hack Conference2013に行って来たので、そのレポート

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ちょっと、若干曖昧なところもあるが、後学の為に、自分が見聞きした事で、メモした事を余さず書き記す。

Open Network Labが主催する、「グロースハックカンファレンス」に行って来た。

シリコンバレー・日本で最先端のグロースハッカーが集結!Onlab [Growth] Hackers Conference 2013

ここ最近、語られる事が多くなって来た「グロースハック」について、国内外からスピーカーを招き、自らの経験をもとにそれぞれがグロースとは何か語る。

スピーカーはこの5人。
・Sean Ellis氏
・Gustaf Alstromer氏
・古川 健介氏
・Ilya Lichtenstein氏
・松本 龍祐氏

今回のポストでは、そのうちの二人を見ていくとしよう。

スピーカー一人目:
Sean Ellis -Qualaroo社CEO-

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Qualaroo社CEO。Qualarooとは、ウェブサイトへの訪問者の動向を分析し、彼らの行動に影響を与えることで顧客との繋がりを強化するマーケティングツールである。Qualaroo以前には、Sean氏はLogMelnとUproarにてローンチからナスダックへのIPOまでを行い、Dropbox、Lookout、Xobniを市場へ送り出すことを指示した。また、Eventbrite、Socialcast、Webs、 World Golf Tour、Wordpress.com、Songkickといったサービスの成長を加速させた。

ちなみに、Growthhackという言葉を作った人。

「グロースハック」という言葉を作った本人がわざわざ来てくれるんだから、千人力だ。

後ほど、直接お話しして、いろいろ相談したりしたが、フランクですごく良い方だった。

じつは、ちょっとだけ冒頭聞き逃してしまったのだが、印象に残ったのが、下記スライドで説明していた概念。

グロースハックの段階

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そもそも、「グロースハック」とは、どの段階で語られるべきものか?このスライドをみるとわかるが、”Growth Transition ” “Scale Growth” の前に”Product/Market Fit”という土台の所がある。

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“Product/Market Fit”とは、Sean曰く、そのプロダクトが特定の人にとって「無くてはならないものになっている」状態の事を指す。
この”Product/Market Fit”が到達している段階でこそ、グロースは意味があるとSean Ellis氏は説く。

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では、Product/Market Fit(PFM)はどのようにして図るか?
ユーザーに直接、「このプロダクトがもう二度と使えなくなるとしたら、どう思いますか?」と聞いてみるのである。
この質問に対して、ターゲットグループが40%であれば、次のステージ(つまりグロースへの第一歩)に行くサインだと言う訳だ。
※ターゲットグループの40%と言うところに注意。すべてのユーザーである必要は無い。サービスのターゲットにしたいユーザーで良い。この段階に到達する前に、グロースを目指すのは、もったいないし、危険でさえある。※二人目のスピーカーである、Gusutaf Alstromer氏は、Gmailの開発者の”Hundred Happy Users”(100人の幸福なユーザー)という言葉を紹介しており、これがまさにPMFに到達する事と同義だと思う。

“Network Effect Exception”
また、”Network Effect Exception”という話もあった。
「グロース」の対象が、すべてがすべて、顧客基盤の拡大、と言う訳ではないと言う事だ。

Network Effectがかかるプロダクトとそうじゃないプロダクトがある。

Network Effectがかかるプロダクト。:ユーザーが増えるたびにプロダクトの価値が高まる。Facebook, Skype, Ebayなどが好例。

そうじゃないプロダクト: ユーザー数の増減がプロダクトの本質的価値にあまり影響を与えない。Apple iPad, Evernoteなどがそうである。

ネットワークエフェクトがかからないプロダクトに関しては、違う観点からのグロース、を考えるべき。つまり、ユーザーエクスペリエンスの向上がグロースの主目的になるだろう。

グロースの為の社内の文化はいかにして、作るか?
Sean Ellis氏が繰り返し主張していたのは、数字。グロースという素地をチームの中に作るには、まず「データを見る」という文化から始める事。そして、グロースハックは特定の人だけのものでなく、チームすべての人のものだということも強調していた。Sean Ellis氏の後のスピーカーでもあったGustaf Alstronomer氏も言っていたが、Airbnbのグロースチームはエンジニア、デザイナーのチームで構成される。今回の講演の中ででた話ではないが、Sean Ellis氏のブログを読むと、グロースのチーム内に、手を動かせる人間の存在(例えばエンジニア)は重要である、と語っていた。グロースは、誰かがやっているから、自分には関係ない、ではなくチームの中に空気のように存在すべきで、すべてのチーム員はデータ・オリエンテッドであるべきなのだ。

また、当然ながらデータを漫然と眺めているだけでも不十分だ。データがそろった後は、「好奇心」から始まる。なぜ、この事象が起こっているのか?原因はなんだろうか?十分なデータと十分な好奇心がクリエーティビティを生む。

また、顧客にたくさん話を聞く事も、グロースを行う上での有用性の高さを挙げていた。例えば、Sean Ellis氏曰く、Airbnbはローンチする前に、クレイグリストのユーザーに繰り返し話を聞き、マーケットは既に存在している事の自信を客観的な裏づけと共に深めていった。余談だが、Airbnbの立ち上げ当初、Craigslistでポストをして顧客獲得をやりまくっていたが、Craigslis側が”airbnb.com”の文字列を含む投稿をできなくしたらしい…。マーケットプレイスを使い倒すと言う意味では、前述のクリエーティビティにあふれる手法でもあると思う。

ブランド認知よりも、ブランド経験を優先せよ。
グロースをする上で、ブランド経験をしたかどうか?と言うことにも重きを置いていた。先ほど、「ユーザーに話をたくさん話を聞く」と書いたが、これはブランド体験をした人(すくなくとも2回以上)に対して行う方がいいらしい。考えてみるとたしかにその通りで、グロースをしたいのであれば、プロダクトについてよくわかっているユーザー、使っているユーザーから意見を聞くべきで、そうなるとブランドを体験した人、と言う事になる。PMFに到達するという話もそうだし、100人の幸福なユーザーを作る、という話もこことつながる。満足度の高いユーザーからの意見は金言なのである。(KPIもユーザーにしてほしい体験、を念頭に置き、設計すべきである。)

スピーカー二人目:

お次はこの方。

Gustaf Alstromer Airbnb社 Product Manager, Growth

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Airbnbのグロースにおけるプロダクトマネージャー。Airbnb以前には、2007年よりモバイルのウェブコミュニティ及び100万人以上のユーザーを持つインスタントメッセージサービスを行うHeysanを共同創設者し、CEO、製品開発を専門としていた。HeysanはY Combinatorのプログラムへも参加している。その後、eBuddyというインスタントメッセージングサービスにてプロダクトマネージャー、Voxerというトランシーバーアプリケーションにおいて、グロースチームの統括を行った。

今回のグロースハックカンファレンスには残念ながら、フィジカルには参加できず、Skype経由での参加となった。講演後、Twitterで質問したら、快く答えてくれた。いい兄ちゃんだった。

ちなみに、Voxerを開発しているときは、Twitterとオフィスをシェアしていたらしい。

講演の中から、拾って来た発言を列挙します。(ほんとはプレゼン資料貰えれば良いのだが、貰えなかった…。)

(以下、講演メモ)
—————-
・週ごとのグロースのレートの違いは、後々、大きな違いをもたらす。例えば、週ごとの成長率が3つあったとして、それぞれ、1% 3% 10%賭した場合、10週間後、信じられない量での違いを見る事になるだろう。(借金が複利で増えていく事を考えると、これはよくわかる。)

・よって、グロースレートを把握する事が重要。グロースレートと時間の経過。

・では、グロースレートの改善とは?それは、「ユーザーがした経験の数」×「経験ごとの改善」としてシンプルに表せられる。

・プロダクトかグロースか?どちらに集中すべきか。

・「多くの会社はグロースをすべきだと思い込みがちであるが、実際は、プロダクトの改善の方が重要だったりする場合もある。」

・では、いつグロースに集中すべきか?

・そのプロダクトは、ユーザーがたくさんんいる事によって向上するのかどうか?例えばAirbnb, Voxer, Twitter, Facebookなどはそうである。だが、Evernoteなどのプロダクトだとそれは違う。シングルユーザーのユースケースが想定されるからである。Evernoteのようなプロダクトであれば、プロダクトの向上にリソースを割くべきである。

・グロースに集中したいのであれば、マーケットで「受け入れられている」ことが前提となる。※Ellis氏のPMFと同じである。

・Airbnbのグロースチームは11人いる。それぞれ、デザイナーやエンジニアである。

・どのような人間をグロースチームとすべきか?
   ー好奇心が旺盛で、データとユーザーについて、好奇心を追求できる人。
   ーすべての立脚点をデータによって示せる人。
   ー人間の心理をよく理解している人。

・ Airbnbチームが使っているグロース用ツール。
ーMixpanel (A/Bテスト用)
    ーOptimizely (A/Bテスト用)
ーGoogle Analytics
    ーYoz.io (モバイルのネイティブアプリ用)
    ー特製ダッシュボード(内製)

・ここから、Voxerの事例にうつる。Voxerは無線のようなコミュニケーションツールとして機能する。グロースの考え方はVoxerにどのように寄与したか?

・もともと、「コミュニケーションツール」と言うカテゴリーから行くと、VoxerはHeytell, Tiki, blip.me,や Talkboxなどのグロースレートが大変高い競合が既にいた。

・その中で、Voxerが伸びる可能性があったのは、SMSでのInvite送信であったり、友人のマッチングする際に置ける。ユーザーのアクティベーションのフェーズだった。

・Voxerには、ユーザーがアプリをダウンロードし、立ち上げた際に、いくつかのフィールドを使って友人関係のマッチングを行い、アクティベーションを行う。Facebook ID/ 電話番号 / Emailの情報であったり、FB ソーシャルグラフ / アドレス帳における友人関係の情報だ。

・プロセスはこうだ。
①Email、電話番号、Facebook IDを介した、自動マッチング作業。
②そこから抽出した友人に対してのプッシュ通知。
③アクティベーション → 最初のユーザー体験へとつながる。
ここでの数字のすべてを、mix panelで把握した。

・どの画面を何パーセントがタップしたか。何パーセントが送信ボタンを押したか。その数値を見ながら、「バイラル係数」を算出。

・グロースの為に、すべてのステップを数値化した。(すべての数値を見ろ、と言う事ではない。)

・このVoxerが「全米1ユーザー数が伸びているアプリ」になるまでの流れが興味深いと思う。

・それまで、iPhone版しかなかったアプリだが、2011/11/1にAndroid版をリリース。

・2011/11/29 1日250,000+Userが増える様になる。

・2012/12/6に全米1ユーザー数が伸びているアプリとしてメディアに取り上げられる。

・Android版出しただけでそんなユーザー数が伸びるのか?

・Androidだと、ユーザーパーミッションの取り方がiPhoneとは違うので、かなり別のユーザーエクスペリエンスを提供できる。

・それが結果として、iPhone版ユーザーにも波及し、驚異的なグロースをたたき出す結果になった。

・メディアに取り上げられるなど、アーンドメディアの効果はありつつも、基本的には広告に関して、$0の費用投下だった。すべて、オーガニックでバイラルに伸びた数字だった。

・100人のプロダクトを愛してやまない人がいない限り、大規模な人集めにお金を投下すべきではないと思う。
—————-
(講演メモ終わり)

今回のエントリーはとりあえず、ここまで。

(あぁ、でもホントブログ書くのって苦手…。気が向いたら、もう少し推敲します。)

SXSW 2013 レポート [Mar. 9]

二日目。前日の反省を生かし、「ホテルから会場へ到着すること」を最優先に考える。手段をえらばず、まわりの人間とコミュニケーションをとり、移動方法を模索した結果、ボストンからのインタラクティブプロデューサーが既にタクシーを手配しているとの事だったので、これに同乗させてもらい、無事会場入り。一日目とは打ってかわり、この日はフルで活動できた日となった。書く内容も盛りだくさんだ。以下は二日目に参加したセッションの内容。

<Conversation with Danny Boyle(ダニー・ボイルとの対話)>

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セッションの冒頭には、ダニー・ボイル監督の最新作”Trance”のトレイラー上映も行われた。

「トレインスポッティング」「127時間」「スラムドッグ・ミリオネア」で有名なダニー・ボイル監督(Danny Boyle)をNew York Timesのコラムニスト,デービッド・カー(David Carr)が迎え、インタビューを行った。

ダニー・ボイル氏プロフィール…
1956年イギリス、マンチェスター生まれ。スコットランドを舞台にした『シャロウ・グレイヴ』(95)、『トレイン・スポッティング』(96)でユースカルチャーの鼓動を捉え、英映画界を覚醒、全世界的衝撃を与える。その後、ハリウッド映画『普通じゃない』『ザ・ビーチ』を監督。イギリスに戻り『28日後…』『ミリオンズ』で、独自の映像感覚が復活。『サンシャイン2057』では、真田広之を起用。

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※中央がダニー・ボイル監督。左がデービッド・カー。右は、ダニー・ボイルとよく組む音楽監督。

デービッド・カー氏プロフィール…
アメリカのジャーナリスト。ミネソタ州ミネアポリス出身。New York Timesのメディア/カルチャー欄執筆を担当。アンドリュー・ロッシ監督のドキュメンタリー映画”Page One: Inside the New York Times”にて頻繁に登場する。

特にテーマがあった訳ではないが、いくつか気になった会話や発言があったので、抜き出してみる。

「ユアン・マクレガーはただの人だった」…
映画”Shallow Grave”で登場するユアン・マクレガー。当時はまだまだ全然無名の俳優だったにも関わらず、オーディションで一目見たときから、「あ、こいつはいけるな」と思ったらしい。ダニー・ボイルの審美眼が優れているのか、ユアン・マクレガーが輝いているのかどちらかわからないけれども、才能が才能を見つけるプロセスというのはいつもミステリアスで同時にすばらしいと思う。

「やってはいけないことをやってしまうところに、うまく行く勝算がある。(バックアップは必要だけど)」…
“Shallow Grave”を撮影しているとき、ワンカットでつなげる手法が常套とされる場面において、意図的にカットを切りまくる事で違う効果が表現できる事を「発見」。データサイエンティストののネイト・シルバー(Nate Silver)も言っていたけど、誰もやった事がない事にトライする事が何かしらの発見や成功につながる第一歩なんだなとこの発言を振り返って、しみじみと感じた。

「It was not my cup of tea」…
2012ロンドンオリンピック開会式の芸術監督だったダニー・ボイル。その時の仕事を評価され、なんとナイト称号の授与を打診されるも、”It was not my cup of tea!”(私が貰うようなものではないね!)と言って断ってしまったらしい。あんまり評価を気にしないところがかっこいい。サー・ボイルも十分かっこいいと思うけれども。

<How Twitter Has Changed How We Watch TV(Twitterはテレビ試聴をいかに変えたか)>
今更ツイッター?と思われるかもしれないが、ツイッターとテレビの「今だからこそ」見えてくる関係性についてのセッション。大変示唆に富んだ内容だった。詳細はこちらから

<Brainstorming Technology First(テクノロジーをまず最初にブレストする)>
R/GAによる、新しいブレストの手法!すばらしいセッションだった。詳細はこちらから

<お昼休み:Agency Meetup デジタルクリエーティブの為の就職フェア>
おい、また就職フェアかよ!と突っ込みを受けそうだが、別に転職したい訳じゃなくて、アメリカの労働市場をよりよく理解する上で、アメリカの会社の採用担当の人と実際に話をしてみたいと思って…ごにょごにょ…まぁ、とにかくせっかくの機会だったので話をしにいってみました!上に挙げたR/GAも担当者が来ていたので、どういう人材を採ろうとしているのか、その「感じ」も見たかった。

<Keynote Elon Mask x Chris Anderson(イーロン・マスク×クリス・アンダーソン対談)>

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ペイパルを創業し、次に電気自動車のテスラモータースを創業し、そしてさらには宇宙を目指し火星への有人着陸を目指すロケット製造企業、spaceXを創業するという、おそらく「アイロン・マン」に出てくるトニー・スタークの現実版みたいなトンデモナイ人がメイカームーブメント提唱者のクリス・アンダーソンと対談するという、超ビッグなキーノートセッション!

と、ここまで書いておきながら、恥ずかしいことに、私はこの対談に参加するまでイーロン・マスクの事をこれまで知らなかった…。こういうセッションに参加できるとSXSWに来てよかったと本当に思う。

イーロン・マスク氏プロフィール…
南アフリカ共和国・プレトリア出身のアメリカの起業家。SpaceX社の共同設立者およびCEOである。PayPal社の前身であるX.com社を1999年に設立した人物でもある。すごすぎて、思わず「私はあなたの爪の垢ほどの価値もございません」「生まれてきてごめんなさい、毎日無為に生きていてごめんなさい」というフレーズが口をついて出そうになる。

クリス・アンダーソン氏プロフィール…
ご存知「メーカー・ムーブメント」の提唱者。元ワイヤード編集長、現在は3D Robotics社CEO。

イーロン・マスクは現在、SpaceX社のCEOとして、火星への有人飛行を民間企業として(冗談抜きで)実現しようとしている。途方もない。対談の冒頭に、クリス・アンダーソンから「テキサスに来たのはこのSXSWだけじゃないですよね?」と話をふられ、「SXSW以外にも、テキサスの政治家と会談をもち、ロケット基地を作れないかどうか探りに来たのです。」と答えるイーロン・マスク。「赤道に近いところがベストロケーション」らしい。普通の社長じゃない。「2016年ぐらいには実際に建設したい」らしい。

そして、次にこんなビデオを見せてくれた。SXSWで世界初公開するビデオらしい。

なんと、ロケットが発射され、空中にしばらくそのまま滞空し、そのまま戻ってくるという今までに見た事ない離れ業をやってのけるのだ!この「駐車」ならぬ、「駐ロケット」動画に会場は大興奮!なぜこのようなロケットの開発を進めているのか?という問いに対して、イーロンは「ロケットの再利用性の重要性」について指摘する。コスト的にも、倫理的にも、ロケットを使い捨てにしない、というのはロジックが成立、というわけけだ。この概念が進むと、いずれは宇宙エレベーターに行き着くのだろう。それまで、ロケットというのは「使い捨て」というのが常識だったと思うが、その常識を覆すべく、未来から現在を逆算し、着実に歩を進める姿勢はすばらしいと思う。「成功の度に、少しずつ、遠かった目標に近づきたいんだ」とイーロン。

また、「なぜSpaceX社を創業したのか?火星への有人飛行ができると思った理由は?」というクリスからの質問に対しては、「NASAが未だに誰も火星に人を送り込めてない事にがっかりしたんです!火星に人類が行く、という事に人々がもっとエキサイトすることで、予算も増えるはずです。できるかできないかより、やるかやらないかと言う問題だと思ったのです。」とのこと。その為には、手段を選ぶ事なく、ロシアから弾道ミサイルを購入しようとした事もあったらしい…。(弾道ミサイルを買うって、どういう交渉ルートで買うのか全く想像もつかないけど…)

次は、イーロンの私生活について。これだけのスーパーマンっぷりを発揮しながらも、実は子供が5人もいるらしい。子育てをしながらメールを読んで返信したり、かなりのマルチタスカーのようだ。ただ、他のイーロン・マスクの記事にも書いてあったが、相当なハードワーカーらしい。

<Muppets to Mastery: UX Principles from Jim Henson(マペットから熟達へ:ジム・ヘンソンに学ぶUXの原理)>

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ラス・アンガー・(Russ Unger)氏プロフィール…

ちなみに、ここにプレゼン資料がアップされている。

UXデザイナーの語るUX/UI論。普通のUXトークと違うのは、セサミストリートでおなじみ「マペット」の制作者ジム・ヘンソンの仕事を引き合いに出して、UX/UI論を展開するところだ。ジム・ヘンソンは、マペット制作を通じ、ハックやプロトタイピング、ビジュアルシンキングを実践した。

この話を聞いていて思うのは、「ハック」だとか、「リーン」だとか、「アジャイル」という現在のUX/UI開発の主流を占める手法論が、ごくごく当たり前の事で、パソコンはおろか、インターネットというものが発明される以前から当たり前のように実践されて来ていた、という事実だ。ラスのセッションはマペット制作者のジム・ヘンソンが主題だったが、彼だけが特別だった訳ではないと思う。きっと、もの作りにたずさわる人の間では、言語化されていないにせよ、通底していたメンタリティーだったのではとこの講義を聴いて思った。

<What’s so funny about innovation(イノベーションの何が面白いって?)>

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もともとコメディアンだったバラトゥンデ・サーストン(Baratunde Thurston)が「笑い」の要素を紐解き、イノベーションと何が似ているか?についてポール・ヴァレリオ(Paul Velrio)と語り合うセッションだった。ポール・ヴァレリオがまじめ係、バラトゥンデ・サーストンがおどけ係という役割分担で話が進んだ。

ポール・ヴァレリオ氏プロフィール…
サンフランシスコにあるデザインコンサルティング会社Methodにて、ストラテジーを担当。複数のブランドをクライアントとして担当。

バラトゥンデ・サーストン氏プロフィール…
コメディアンでありつつも、ビジネスパーソン。Cultivated Witの設立者およびCEO。MITメディアラボフェローでもある。声はでかいが、話し方が知的なあんちゃん。

以下はセッション中に取ったメモ:


01:オーディエンスを知れ。そして、彼らに耳を傾けない。
「笑い」において、観客を知る事は重要。だが、観客に何が面白いか?を聞きすぎるのはあまり助けにならない。それよりかは、まず「自分」というフィルターを通してみて面白いかどうか?を判断しなければならない。その後は観客に合わせて多少のアジャストをする。観客が何を知っているかを知っている事が重要だ。

02:データはインサイトの代用にはならない。
データのリサーチをたくさんする事でインサイトは生まれない。

03:常に新鮮であれ。
「笑い」においても、同じギャグを何回も言い続けるのは飽きてしまう。時々何か新しいものを入れこまないと行けない。温故知新という手法もある。

04:自分なりの視点を持とう。
レイトナイトショーを見ると、どの司会者も同じ時事問題を扱っているときがあるが、それぞれ微妙に違う。自分の視点があるからだ。自分自身の考えを公にする事のできるツールがたくさんある今、自分の視座と言うものが自分自身をユニークたらしめる唯一のものだ。よって、自分自身の事を良く知るのが大事。

05:みんなに受けようとは思わない事。
笑いにおいても、市場においても、100%のシェアというものは存在しない。

これで、とりあえず二日目は終了。講義を聴きまくり、新しい価値観にたくさん触れた。テンションがあがる。