今年は、自分のキャリアで生まれて初めて、カンヌに来てみることにした。自腹で。
営業から転局し、今日に至るまで、しばらくクリエーティブの部門に身を置いている訳だが、これまでちゃんとクリエーティブとしてのトレーニングを包括的に受けてきてわけではなく、足りない部分がめちゃめちゃあると自覚しているので、短期間ではあるが、世界で最高のクリエーティブに身を浴すことで、その研修に少しでもなればと思い、来た。
すでに、悔しい思いというか、受賞している人達がうらやましく見えてしかたないので、カンヌに来た効果は出ていると思う。
カンヌと言えば、エントリー作品を見る事が多いが、カンヌの会場では、セミナーも多く行われている。カンヌのセミナーについては、語られることがあまりないので、去年のSXSWと同じようにそれについてまとめてみることにする。
今日は、博報堂のセミナーが印象に残ったので、それについて、書く。
博報堂のテーマは、「2024において、エージェンシーのモデルとはどうあるべきか?」というものだった。今から10年後の未来だ。遠いようで、そう遠くない未来。
プレゼンターは、博報堂の長谷部守彦氏と博報堂ケトルの木村健太郎氏。お二人の姿を撮るのを忘れてしまった・・・。二人とも、絶妙な漫才的な掛け合いで、面白かったです。senseiってのがkarate kidを彷彿とさせる。
ちょい、スターウォーズっぽいスライド(笑)このセミナーでは、大きく三つのトピックがあった。2024のエージェンシーでは、どのようなスキルが求められるのか。また、そのときの組織はどうあるべきか。そして、2024のエージェンシーは、どのようなミッションを持つべきか。
博報堂が、もつサービス領域はStrategy/Creative/Digital/PR/Media/Eventなど多岐にわたる。
ここまでは、通常の広告コミュニケーションの範疇。
だが、目を転じてみると、先ほどの広告領域以外にも、領域は外にたくさんある。
この領域までに波及することを、博報堂はMarket Designと定義。
その実例の一つ。例えば、このHito Medical Hospital。これは、博報堂が設計まで携わった病院。
広告会社がやるだろう伝統的なネーミングや、ビジュアルアイデンティティの設計に始まり、
内装や建築までも設計している。
まるで、ホテルのような内観の病院だ。
入院する人だけでなく、一緒に看病する人のことも考えて設計された病室。奥に和風の個室がある。
暖炉もある。火を見る事で、生きる力も燃やす。
それは、広義の意味で、広告会社が持っているデザインの力やノウハウを、「医療」という領域にまで広げる、ということ。
次の事例。Remmというブランドで展開するホテル。
知っている人も多いかもしれないが、このホテルは、「眠り」にフォーカスしたホテルだ。これは、ビジネスホテルを利用する人の大半が、ホテルでは寝るだけである、という実態に基づいてつくられたもの。シャワーの位置だったり、ベッドの作りだったり、建築的にも、内装的にも、眠りに特化したものになっている。これは、生活者に対しての知見を持つ広告会社が、その力を建築という分野に伸張した結果、生まれたアウトプットである。
次に見たのは、Yahooのさわれる検索。写真がすくなくて、恐縮だが、ケースフィルムが流れた後、会場に割れんばかりの拍手が起こる。さわれる検索の場合、テクノロジーという知見を教育に適用することでできた新しい仕事だ。
今見た事例は、伝統的な広告領域の外で、それぞれ新しい事例を生み出した。
そこから、ひもとけるのは、2024のエージェンシーに求められるのは、Hybrid Expertise。つまり、一つの専門領域ではなく、2つ以上の専門領域をハイブリッドさせる、ということ。
次の事例。そして、組織論への話に。映画やアニメなどのコンテンツ。
これを広告と絡める。日本ではおなじみのビジネスモデルだが、海外のエージェンシーからすると、確かに新鮮に聞こえるものなのだろう。
次は博報堂ケトルの話に。博報堂ケトルは、いわゆる雑誌などのコンテンツを作ったりもしている。博報堂ケトルの20%の利益は、雑誌などの、起業により、出しているらしい。B&Bという本屋をつくったりした。Book & Beerの略で、お酒を飲みながら、本を読める。本を売るだけでなく、そこでセミナーをやったりして、そこでコミュニティーをつくり、利益を上げている。
そして、また次の事例。スポーツをデータで分析する。Data Analytics + Sportsである。それを、Advisory Businessにしている。社内ベンチャーとして、スタートしてる。
他にも、12のスタートアップが博報堂にはある。2024には、United Ventureに成っている、とのこと。ベンチャーのようなスピードのある、少人数での組織をたくさんつくり、動いていく。
そして、最後のトピック。2024のエージェンシーのミッションとは。それは、”life design”であるとのこと。
たとえば、この事例。”Rice Code”田んぼに、異なる色の米を埋めることで、絵を描く、というもの。
ここで、育てた米は、オンラインで買えたり、社内の社食のご飯に使われたりする。エージェンシーが畑を持っている、ということがすごく受けていた。
つまり、これは、Digitalと農業を合わせた新しい、領域なのだ。
また、最後に、「みらいにほん」という事例。家を発明し直す。日産リーフを使うことで、独立したエネルギーを供給できる家。人の生活を作り直す。
最後に。
アインシュタインの言葉を引用。想像力を使うことで、未来が、ちょっとだけ見える。
個人的には、博報堂らしい「生活者発想」が感じられるプレゼンだった。電通だと、「総合力」という観点から施策のレバレッジをきかせようとすることが多いが、博報堂だと、United Venturesなど、個の力を重視しているように感じた。
また、少し思ったのは、カンヌの会場に来ているエージェンシーの多くは、電通や博報堂のような、いわゆる「日本型エージェンシー」の規模を持っていないところがほとんどなので、良くも悪くも、「自分のエージェンシーではこういうことはできないな」と感じる人が多く居そうな気がした。むしろ、日本のユニークネスや強みの一つとして認知されただろう。
カンヌでのスピーチもさることながら、SXSWとかでも発表すれば、「エージェンシーの役割とは何か?」と自問自答する人がSXSWのほうが多いので、よりおもしろがって聞いてもらえたトークだと思う。
自己啓発型セミナーが多い、カンヌだが、ソリッドなプレゼンで、面白かった。(えらそーですね、すみません。)