SXSW 2013 レポート [Mar. 9]


二日目。前日の反省を生かし、「ホテルから会場へ到着すること」を最優先に考える。手段をえらばず、まわりの人間とコミュニケーションをとり、移動方法を模索した結果、ボストンからのインタラクティブプロデューサーが既にタクシーを手配しているとの事だったので、これに同乗させてもらい、無事会場入り。一日目とは打ってかわり、この日はフルで活動できた日となった。書く内容も盛りだくさんだ。以下は二日目に参加したセッションの内容。

<Conversation with Danny Boyle(ダニー・ボイルとの対話)>

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セッションの冒頭には、ダニー・ボイル監督の最新作”Trance”のトレイラー上映も行われた。

「トレインスポッティング」「127時間」「スラムドッグ・ミリオネア」で有名なダニー・ボイル監督(Danny Boyle)をNew York Timesのコラムニスト,デービッド・カー(David Carr)が迎え、インタビューを行った。

ダニー・ボイル氏プロフィール…
1956年イギリス、マンチェスター生まれ。スコットランドを舞台にした『シャロウ・グレイヴ』(95)、『トレイン・スポッティング』(96)でユースカルチャーの鼓動を捉え、英映画界を覚醒、全世界的衝撃を与える。その後、ハリウッド映画『普通じゃない』『ザ・ビーチ』を監督。イギリスに戻り『28日後…』『ミリオンズ』で、独自の映像感覚が復活。『サンシャイン2057』では、真田広之を起用。

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※中央がダニー・ボイル監督。左がデービッド・カー。右は、ダニー・ボイルとよく組む音楽監督。

デービッド・カー氏プロフィール…
アメリカのジャーナリスト。ミネソタ州ミネアポリス出身。New York Timesのメディア/カルチャー欄執筆を担当。アンドリュー・ロッシ監督のドキュメンタリー映画”Page One: Inside the New York Times”にて頻繁に登場する。

特にテーマがあった訳ではないが、いくつか気になった会話や発言があったので、抜き出してみる。

「ユアン・マクレガーはただの人だった」…
映画”Shallow Grave”で登場するユアン・マクレガー。当時はまだまだ全然無名の俳優だったにも関わらず、オーディションで一目見たときから、「あ、こいつはいけるな」と思ったらしい。ダニー・ボイルの審美眼が優れているのか、ユアン・マクレガーが輝いているのかどちらかわからないけれども、才能が才能を見つけるプロセスというのはいつもミステリアスで同時にすばらしいと思う。

「やってはいけないことをやってしまうところに、うまく行く勝算がある。(バックアップは必要だけど)」…
“Shallow Grave”を撮影しているとき、ワンカットでつなげる手法が常套とされる場面において、意図的にカットを切りまくる事で違う効果が表現できる事を「発見」。データサイエンティストののネイト・シルバー(Nate Silver)も言っていたけど、誰もやった事がない事にトライする事が何かしらの発見や成功につながる第一歩なんだなとこの発言を振り返って、しみじみと感じた。

「It was not my cup of tea」…
2012ロンドンオリンピック開会式の芸術監督だったダニー・ボイル。その時の仕事を評価され、なんとナイト称号の授与を打診されるも、”It was not my cup of tea!”(私が貰うようなものではないね!)と言って断ってしまったらしい。あんまり評価を気にしないところがかっこいい。サー・ボイルも十分かっこいいと思うけれども。

<How Twitter Has Changed How We Watch TV(Twitterはテレビ試聴をいかに変えたか)>
今更ツイッター?と思われるかもしれないが、ツイッターとテレビの「今だからこそ」見えてくる関係性についてのセッション。大変示唆に富んだ内容だった。詳細はこちらから

<Brainstorming Technology First(テクノロジーをまず最初にブレストする)>
R/GAによる、新しいブレストの手法!すばらしいセッションだった。詳細はこちらから

<お昼休み:Agency Meetup デジタルクリエーティブの為の就職フェア>
おい、また就職フェアかよ!と突っ込みを受けそうだが、別に転職したい訳じゃなくて、アメリカの労働市場をよりよく理解する上で、アメリカの会社の採用担当の人と実際に話をしてみたいと思って…ごにょごにょ…まぁ、とにかくせっかくの機会だったので話をしにいってみました!上に挙げたR/GAも担当者が来ていたので、どういう人材を採ろうとしているのか、その「感じ」も見たかった。

<Keynote Elon Mask x Chris Anderson(イーロン・マスク×クリス・アンダーソン対談)>

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ペイパルを創業し、次に電気自動車のテスラモータースを創業し、そしてさらには宇宙を目指し火星への有人着陸を目指すロケット製造企業、spaceXを創業するという、おそらく「アイロン・マン」に出てくるトニー・スタークの現実版みたいなトンデモナイ人がメイカームーブメント提唱者のクリス・アンダーソンと対談するという、超ビッグなキーノートセッション!

と、ここまで書いておきながら、恥ずかしいことに、私はこの対談に参加するまでイーロン・マスクの事をこれまで知らなかった…。こういうセッションに参加できるとSXSWに来てよかったと本当に思う。

イーロン・マスク氏プロフィール…
南アフリカ共和国・プレトリア出身のアメリカの起業家。SpaceX社の共同設立者およびCEOである。PayPal社の前身であるX.com社を1999年に設立した人物でもある。すごすぎて、思わず「私はあなたの爪の垢ほどの価値もございません」「生まれてきてごめんなさい、毎日無為に生きていてごめんなさい」というフレーズが口をついて出そうになる。

クリス・アンダーソン氏プロフィール…
ご存知「メーカー・ムーブメント」の提唱者。元ワイヤード編集長、現在は3D Robotics社CEO。

イーロン・マスクは現在、SpaceX社のCEOとして、火星への有人飛行を民間企業として(冗談抜きで)実現しようとしている。途方もない。対談の冒頭に、クリス・アンダーソンから「テキサスに来たのはこのSXSWだけじゃないですよね?」と話をふられ、「SXSW以外にも、テキサスの政治家と会談をもち、ロケット基地を作れないかどうか探りに来たのです。」と答えるイーロン・マスク。「赤道に近いところがベストロケーション」らしい。普通の社長じゃない。「2016年ぐらいには実際に建設したい」らしい。

そして、次にこんなビデオを見せてくれた。SXSWで世界初公開するビデオらしい。

なんと、ロケットが発射され、空中にしばらくそのまま滞空し、そのまま戻ってくるという今までに見た事ない離れ業をやってのけるのだ!この「駐車」ならぬ、「駐ロケット」動画に会場は大興奮!なぜこのようなロケットの開発を進めているのか?という問いに対して、イーロンは「ロケットの再利用性の重要性」について指摘する。コスト的にも、倫理的にも、ロケットを使い捨てにしない、というのはロジックが成立、というわけけだ。この概念が進むと、いずれは宇宙エレベーターに行き着くのだろう。それまで、ロケットというのは「使い捨て」というのが常識だったと思うが、その常識を覆すべく、未来から現在を逆算し、着実に歩を進める姿勢はすばらしいと思う。「成功の度に、少しずつ、遠かった目標に近づきたいんだ」とイーロン。

また、「なぜSpaceX社を創業したのか?火星への有人飛行ができると思った理由は?」というクリスからの質問に対しては、「NASAが未だに誰も火星に人を送り込めてない事にがっかりしたんです!火星に人類が行く、という事に人々がもっとエキサイトすることで、予算も増えるはずです。できるかできないかより、やるかやらないかと言う問題だと思ったのです。」とのこと。その為には、手段を選ぶ事なく、ロシアから弾道ミサイルを購入しようとした事もあったらしい…。(弾道ミサイルを買うって、どういう交渉ルートで買うのか全く想像もつかないけど…)

次は、イーロンの私生活について。これだけのスーパーマンっぷりを発揮しながらも、実は子供が5人もいるらしい。子育てをしながらメールを読んで返信したり、かなりのマルチタスカーのようだ。ただ、他のイーロン・マスクの記事にも書いてあったが、相当なハードワーカーらしい。

<Muppets to Mastery: UX Principles from Jim Henson(マペットから熟達へ:ジム・ヘンソンに学ぶUXの原理)>

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ラス・アンガー・(Russ Unger)氏プロフィール…

ちなみに、ここにプレゼン資料がアップされている。

UXデザイナーの語るUX/UI論。普通のUXトークと違うのは、セサミストリートでおなじみ「マペット」の制作者ジム・ヘンソンの仕事を引き合いに出して、UX/UI論を展開するところだ。ジム・ヘンソンは、マペット制作を通じ、ハックやプロトタイピング、ビジュアルシンキングを実践した。

この話を聞いていて思うのは、「ハック」だとか、「リーン」だとか、「アジャイル」という現在のUX/UI開発の主流を占める手法論が、ごくごく当たり前の事で、パソコンはおろか、インターネットというものが発明される以前から当たり前のように実践されて来ていた、という事実だ。ラスのセッションはマペット制作者のジム・ヘンソンが主題だったが、彼だけが特別だった訳ではないと思う。きっと、もの作りにたずさわる人の間では、言語化されていないにせよ、通底していたメンタリティーだったのではとこの講義を聴いて思った。

<What’s so funny about innovation(イノベーションの何が面白いって?)>

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もともとコメディアンだったバラトゥンデ・サーストン(Baratunde Thurston)が「笑い」の要素を紐解き、イノベーションと何が似ているか?についてポール・ヴァレリオ(Paul Velrio)と語り合うセッションだった。ポール・ヴァレリオがまじめ係、バラトゥンデ・サーストンがおどけ係という役割分担で話が進んだ。

ポール・ヴァレリオ氏プロフィール…
サンフランシスコにあるデザインコンサルティング会社Methodにて、ストラテジーを担当。複数のブランドをクライアントとして担当。

バラトゥンデ・サーストン氏プロフィール…
コメディアンでありつつも、ビジネスパーソン。Cultivated Witの設立者およびCEO。MITメディアラボフェローでもある。声はでかいが、話し方が知的なあんちゃん。

以下はセッション中に取ったメモ:


01:オーディエンスを知れ。そして、彼らに耳を傾けない。
「笑い」において、観客を知る事は重要。だが、観客に何が面白いか?を聞きすぎるのはあまり助けにならない。それよりかは、まず「自分」というフィルターを通してみて面白いかどうか?を判断しなければならない。その後は観客に合わせて多少のアジャストをする。観客が何を知っているかを知っている事が重要だ。

02:データはインサイトの代用にはならない。
データのリサーチをたくさんする事でインサイトは生まれない。

03:常に新鮮であれ。
「笑い」においても、同じギャグを何回も言い続けるのは飽きてしまう。時々何か新しいものを入れこまないと行けない。温故知新という手法もある。

04:自分なりの視点を持とう。
レイトナイトショーを見ると、どの司会者も同じ時事問題を扱っているときがあるが、それぞれ微妙に違う。自分の視点があるからだ。自分自身の考えを公にする事のできるツールがたくさんある今、自分の視座と言うものが自分自身をユニークたらしめる唯一のものだ。よって、自分自身の事を良く知るのが大事。

05:みんなに受けようとは思わない事。
笑いにおいても、市場においても、100%のシェアというものは存在しない。

これで、とりあえず二日目は終了。講義を聴きまくり、新しい価値観にたくさん触れた。テンションがあがる。

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