カンヌ2014:課題解決のために「ハック」した事例5選


クリエーティブ部門に移ってから、いろいろな人に体系的にやれと言われていることがあり、それはとにかくたくさんの事例を見て、研究する事である。今回、カンヌに来ているのも、浴びるように事例を見る事が、目的の一つだ。

事例をいろいろ勉強するようになり、何となく自分の好きな「カテゴリー」があることに気付いた。

「こんな簡単なやり方があったのか!という手法。「ずるい!」とさえ思えてしまうような手法。ある種、「ハック」するような方法に、自分としては強く惹かれるところがある。

まとめられれば、他のエントリーで、またかければと思うが、会場で審査員に話を聞いてみたりすると、賞をとる事例は、とにかく「アイデア」の良さが繰り返し語れるのだが、自分が好きなハック的手法にはこのアイデアの要素が強く内包される。時には狡猾にすら思える、予想を裏切る手法で、見事に目的を達成し、課題を解決する。また、その裏切りのプロセスが、きわめて人間的なので、コミュニケーションに接近した人も、「あ、こりゃやられたな」という風になる。これはアイデアである。自分も、こういう事例をやってみたいと思う。

カンヌで、様々な受賞作品を観ながら、そんな「ハック」的な作品があったので、自分がこれまでみたもののいくつかをここで紹介できればと思う。

Brother In Arms “Bank Job” 〜①銀行の振り込み通知をハックする〜

Brother In Armsはチャリティー団体だ。寄付を募るために、企業に寄付のお願いをする必要があった。そこで、オンライン送金フォームというプラットフォームを逆手にとり、こちらから寄付をしてくれそうな企業に「勝手に」お金を送金する。そのときに、備考欄にちょっとずつメッセージを記載し、何回も送金すると。送られた側からすると、大量の少額の入金があり、しかもそれを続けて読むとメッセージになっている。そして、すごいのは、ただメッセージを送るだけでなく、送られたお金がエラーとして出てくるので、先方はお金を返さなければならず、返すには電話をするしかない。ある状況を逆手に取り、向こうの行動を無理矢理規定する。スト2のハメ技のようなやっかいさだ。これは、まさしくハックだと思う。

“Phubbing” 〜②言葉をハックする〜

オーストラリアの国語辞典の事例。「言葉とは変わり続けるものだ」ということを訴求するために、考え出された事例なのだが、やり方がえげつないぐらいすごい。何をしたかというと、国語学者や、クロスワードパズル師などの、言葉に関するエキスパートを集めて、「スマホに夢中になって、人の話を聞かない」という動詞はどんな言葉か?ということを議論。結果、”Phubbing”という言葉を開発。そして、この言葉が、実際に動詞として人々の間で浸透。「言葉をつくる」という荒技をどうやってやったのか詳細は分からないが、言語をハックする、というアイデアがすごい。

“Removal Happens” 〜③Youtubeの仕組みをうまく使う。〜

とある、離婚相談に強い、法律事務所の広告。ちょっと、悲しいというか、何とも言えなくなってしまう広告だ。700人のクライアント候補に、メールを送るのだが、そこにあるのは、ありがちな新婚カップルの結婚式のYoutubeリンク(とその動画のサムネール)。なんだと思って、動画を再生しようとすると・・・。

“#Sochiproblems” 〜④時事ネタを逆手に取る〜

ソチオリンピックは、競技もさることながら、開催直前になってもジャーナリストが使うホテルの設備などが全くできておらず、あり得ないサービスの数々がソーシャル上で話題になったオリンピックでもあった。会場に到着した記者達が、「ホテルの蛇口ひねると茶色い水が出てくるぜ!ありえねー!」とか「部屋の予約が取れてなかった・・・ってか、むしろ部屋自体が完成してないんだけど!!」といったようなツイートがありえなさすぎて世界中で面白がられてバズっていたのだが、この状況をうまく逆手に取ったのがAirbnb。そんな悲壮なツイートをしている記者達に対して、逆にツイートを送り、Airbnbだったら、全然快適だったのに、残念だね!というツイートを逆に送りつける。話題になっている時事ネタにうまく乗っかって、逆に自分たちの話をしてしまう。非常にうまい方法だと思う。

“Incomplete Bios” 〜⑤大事にしたいプロフィールを利用する〜

これも、シンプルで非常に好き。子どもへの施策について言及しない政治家に対して、いかに政策を引き出すか。この事例では、政治家のwikipediaを編集。「子どもへの政策」という項目を対象の政治家のプロフィールに追加。そこをあえて、白紙にする事で、マニフェストに政策が欠落していることを訴求させる。やっていることはシンプルだが、メッセージとしては、強い。

たしかに、効果のほどはどうか?という事例も中には少なくない。だが、問としてあげられた問題に対して、どのようにエレガントに解決策を提示するか、ということについてはアイデアが確かに感じられるものばかりだと思う。

でも、なんだか、ハックハックって、バカみたいですね。