SXSW 2013 レポート: R/GAセッション “Brainstorming Technology First” [Mar. 9]

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SXSW2013 二日目、R/GAによる超人気セッション!開始40分以上前に到着したにも関わらず、キャパがいっぱいで、運営側から入場を断られてしまうも、なんとかお願いし倒して入れてもらった。このセッションはすごく面白かったので、独立したポストでこのブログでシェアしたいと思う。

Nike+ Fuel Band などを開発、いわゆるトラディショナルな広告ではなく、デジタルの最先鋒を走る旗手であるR/GA。今回のセッションのタイトルは “Brainstorming Technology First”(まず最初にテクノロジーをブレストする)となっており、広告業界なじみの「これまでのブレスト」ではなくテクノロジーを生かす為のブレストの手法論を主に紹介するようになっていた。講師はWill Turnage。Technology & Invention部門のヴァイスプレジデントだ。

そして、すばらしい事に、ここに当日のプレゼン資料があがっているので、見てもらうと良い。

プレゼン資料をかいつまみながら、解説していければと思う。

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まず最初に、R/GAの直近の仕事からの紹介だった。

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Duck Dynasty。

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Raybanのアプリ。

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Miyamo。

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プロジェクトでいつも気をつけてるのは、それぞれが “Legible + Interesting” つまり、きちんと「理解」されかつ同時に「面白い」仕事になるようにする事。

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いわゆる「既存のブレスト」のやり方は、きちんとしたブリーフを書いてから、「じゃあ、みんなで思いつくまま考えよう!」という感じが多いと思う。いっぱい考えて、考えて、いいアイデアを思いつくようにがんばる。

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普通は、「アイデア」を考えるフェーズが先行し、その後に「実行」についてできるかどうか考えるフェーズに移行する。そのときに初めて”Is this possible?”(このアイデアは実現可能か?)と言う質問をチーム内で検討する事になると思う。しかしながら、この問いの立て方には大きな間違いがある。

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なぜなら「実行可能かどうか」という問いにはエクスペリエンスとしてどうか?という問いが含まれないからだ。写真にもある通り、実行は可能だが、エクスペリエンスとしてどうなんだと思ってしまう状態は往々にしてあり得る。(ここで会場爆笑に包まれる)

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ユーザーからすると、エグセキューションからアイデアに触れることになるので、エグセキューション自体がエクスペリエンスの導入になるのだ。

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アイデアから実行までを順番に行っていくとすると、実行段階でいろいろ揉んだりしているうちに、元のアイデアに含まれていた部分が失われて、「薄く」なることがよくある。

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そして、アイデアから実行までのプロセスを線的に踏むと、そもそも時間がかかりすぎてしまう。

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では、テクノロジーをきちんと活用する為に、ブレインストーミングはどうあるべきか?

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それは、アイデアを考えながらも、同時に実行についての検討プロセスが平行して進むようになるべきである。

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その為に重要なポイント。かならず、最初の目的に立ち戻る事だ。このアイデアで本当にワークしているかどうか?

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次は、制約を積極的に受け入れる事。何かを作るということは、ある程度の制約の中で行われる事が普通だ。

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そしてもう一つが練習をたくさんする事。テクノロジーを活用する為には、普段からテクノロジーに触れている必要がある。新しいAPIを試してみる、新しいガジェットをハックしてみる、など日頃からのトレーニングが欠かせない。

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ここからは実際にR/GAで活用している”TechFirst Brainstorming”の手法論の話になる。

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ブレストの事前準備。約1~2日をTechFirst Brief執筆に費やす。その際に、施策の目的/ストラテジーに合致するテクノロジーを一つ選ぶ事。それは、具体的でなければいけない。それはOSであったり、プラットフォームであったりと曖昧な選び方にはならない。具体的な機能や特徴でなければならない。

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その後、1時間を上限に、ブレストセッションを展開。まず5~8分をかけて、事前に書いたブリーフをもとに、ブレストの参加者それぞれ、「一人」で回答してもらう。このときに、アイデアを搾り取るように、短い時間で集中して行う。場合によってはこの5分のプロセスを2〜3回繰りかえしてもよい。その後、45分程度をかけてみんなで出し合ったアイデアを共有し、場合によってはアイデアを広げるようにする。

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実際にやってみた具体例を。一つ目は「仮定」メソッド。

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新しいiPadが発売され、大人が触ったときと、子供が触ったときと、赤ちゃんが触ったとき、それぞれの違いがきちんと認識されるような機能があったとする。この機能を使ってできそうなことを10個挙げてみよう。

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ブレストの結果がこちら。白板に書かれているをいくつか拾ってみると…。
・子供用のロック。ペアレンタルコントロール機能。
・Netflixアプリ用のフィルター
・ゲームの難易度を変更させる
・年齢検出

まぁ、これだけだとわかりづらいかもしれないが、いっぱい出てくる。

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もう一つの手法論。”Fill in the blanks”「空白を埋めてみよう」という方法。

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たとえば、コレ。トラックにインスタグラムフィルターがついていたとして、どんな写真を撮ったか?というお題形式で想像力を膨らませるもの。大喜利みたいな感じ。

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いろいろ試してみると、想像力を刺激される回答が出来上がってくる。

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次の手法は、”Magnetic Poetry”と呼ばれる手法。

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見ての通り、いろいろな言葉を組み合わせる事で、アイデアを出す、という手法だ。カテゴリーは”Descriptor”(修飾語)”Technolgy”(技術)の2パターン。

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例をとって、いくつか組み合わせてみる。”fanciful”(空想に富む) + “garbage”(ゴミ) + “tumblr”=「空想的なゴミがあつまるタンブラー」というのは一体どんなものだろうか?

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“bright” + “money” + “followers”だとどうだろうか?想像力が刺激されてこないだろうか?

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さきほどの”Magnetic Poetry”のアップグレード版。

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すこし項目が追加されている。 “Tone”(トーン) “Occasion”(状況)”Functionality”(機能)

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何かのアイデアにつながりそうな組み合わせをどんどんピックアップしていく。

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今度は、言葉の組み合わせではなく、APIの組み合わせでアイデアを作る手法。

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たとえば、”foursquare API” + “instagram API”という組み合わせで考えてみると…。

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それっぽいプロダクトの一丁出来上がり!アイデアを考える為の素地に十分なる。

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この手法をR/GAで実際に活用してでわかった事。

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それはブレストによって生まれるアイデアがより面白く、かつ実現可能なものがたくさん生まれたと言う事だ。

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さらには、時間を短縮した。

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そして、クリエーティブ作業をクリエーティブスタッフだけでなく、それ以外のスタッフにとってもアクセスしやすいものにする事ができた。

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ただ、この手法はかならずしも万能ではない。この手法を活用しても「あんまり俺には向かなかったみたい」と言う人もいる。従来通りのブレストに固執する人もいるかもしれない。そういう人たちに対して無理にこの方法論を強いる必要はない。

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この手法はツールの一つでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、強力なツールである事は間違いない。

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ここからはちょっとしたTIPS。

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ブレストの前段階になるTechFirstブリーフは書き上げるのに時間がかかる。ブリーフの執筆には十分な時間を割く事。

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「このアイデアは実現可能か?」と問いをたてるのではなく、「このアイデアは良いUXで実現可能か?」という問いで繰り返しアイデアを自問自答する事が大切だ。

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そして、このブレストの際には、クリエーティブスタッフだけでなく、それ以外のスタッフにも入ってもらう事が重要だ。

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