SXSW 2013 レポート [Mar. 9]

二日目。前日の反省を生かし、「ホテルから会場へ到着すること」を最優先に考える。手段をえらばず、まわりの人間とコミュニケーションをとり、移動方法を模索した結果、ボストンからのインタラクティブプロデューサーが既にタクシーを手配しているとの事だったので、これに同乗させてもらい、無事会場入り。一日目とは打ってかわり、この日はフルで活動できた日となった。書く内容も盛りだくさんだ。以下は二日目に参加したセッションの内容。

<Conversation with Danny Boyle(ダニー・ボイルとの対話)>

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セッションの冒頭には、ダニー・ボイル監督の最新作”Trance”のトレイラー上映も行われた。

「トレインスポッティング」「127時間」「スラムドッグ・ミリオネア」で有名なダニー・ボイル監督(Danny Boyle)をNew York Timesのコラムニスト,デービッド・カー(David Carr)が迎え、インタビューを行った。

ダニー・ボイル氏プロフィール…
1956年イギリス、マンチェスター生まれ。スコットランドを舞台にした『シャロウ・グレイヴ』(95)、『トレイン・スポッティング』(96)でユースカルチャーの鼓動を捉え、英映画界を覚醒、全世界的衝撃を与える。その後、ハリウッド映画『普通じゃない』『ザ・ビーチ』を監督。イギリスに戻り『28日後…』『ミリオンズ』で、独自の映像感覚が復活。『サンシャイン2057』では、真田広之を起用。

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※中央がダニー・ボイル監督。左がデービッド・カー。右は、ダニー・ボイルとよく組む音楽監督。

デービッド・カー氏プロフィール…
アメリカのジャーナリスト。ミネソタ州ミネアポリス出身。New York Timesのメディア/カルチャー欄執筆を担当。アンドリュー・ロッシ監督のドキュメンタリー映画”Page One: Inside the New York Times”にて頻繁に登場する。

特にテーマがあった訳ではないが、いくつか気になった会話や発言があったので、抜き出してみる。

「ユアン・マクレガーはただの人だった」…
映画”Shallow Grave”で登場するユアン・マクレガー。当時はまだまだ全然無名の俳優だったにも関わらず、オーディションで一目見たときから、「あ、こいつはいけるな」と思ったらしい。ダニー・ボイルの審美眼が優れているのか、ユアン・マクレガーが輝いているのかどちらかわからないけれども、才能が才能を見つけるプロセスというのはいつもミステリアスで同時にすばらしいと思う。

「やってはいけないことをやってしまうところに、うまく行く勝算がある。(バックアップは必要だけど)」…
“Shallow Grave”を撮影しているとき、ワンカットでつなげる手法が常套とされる場面において、意図的にカットを切りまくる事で違う効果が表現できる事を「発見」。データサイエンティストののネイト・シルバー(Nate Silver)も言っていたけど、誰もやった事がない事にトライする事が何かしらの発見や成功につながる第一歩なんだなとこの発言を振り返って、しみじみと感じた。

「It was not my cup of tea」…
2012ロンドンオリンピック開会式の芸術監督だったダニー・ボイル。その時の仕事を評価され、なんとナイト称号の授与を打診されるも、”It was not my cup of tea!”(私が貰うようなものではないね!)と言って断ってしまったらしい。あんまり評価を気にしないところがかっこいい。サー・ボイルも十分かっこいいと思うけれども。

<How Twitter Has Changed How We Watch TV(Twitterはテレビ試聴をいかに変えたか)>
今更ツイッター?と思われるかもしれないが、ツイッターとテレビの「今だからこそ」見えてくる関係性についてのセッション。大変示唆に富んだ内容だった。詳細はこちらから

<Brainstorming Technology First(テクノロジーをまず最初にブレストする)>
R/GAによる、新しいブレストの手法!すばらしいセッションだった。詳細はこちらから

<お昼休み:Agency Meetup デジタルクリエーティブの為の就職フェア>
おい、また就職フェアかよ!と突っ込みを受けそうだが、別に転職したい訳じゃなくて、アメリカの労働市場をよりよく理解する上で、アメリカの会社の採用担当の人と実際に話をしてみたいと思って…ごにょごにょ…まぁ、とにかくせっかくの機会だったので話をしにいってみました!上に挙げたR/GAも担当者が来ていたので、どういう人材を採ろうとしているのか、その「感じ」も見たかった。

<Keynote Elon Mask x Chris Anderson(イーロン・マスク×クリス・アンダーソン対談)>

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ペイパルを創業し、次に電気自動車のテスラモータースを創業し、そしてさらには宇宙を目指し火星への有人着陸を目指すロケット製造企業、spaceXを創業するという、おそらく「アイロン・マン」に出てくるトニー・スタークの現実版みたいなトンデモナイ人がメイカームーブメント提唱者のクリス・アンダーソンと対談するという、超ビッグなキーノートセッション!

と、ここまで書いておきながら、恥ずかしいことに、私はこの対談に参加するまでイーロン・マスクの事をこれまで知らなかった…。こういうセッションに参加できるとSXSWに来てよかったと本当に思う。

イーロン・マスク氏プロフィール…
南アフリカ共和国・プレトリア出身のアメリカの起業家。SpaceX社の共同設立者およびCEOである。PayPal社の前身であるX.com社を1999年に設立した人物でもある。すごすぎて、思わず「私はあなたの爪の垢ほどの価値もございません」「生まれてきてごめんなさい、毎日無為に生きていてごめんなさい」というフレーズが口をついて出そうになる。

クリス・アンダーソン氏プロフィール…
ご存知「メーカー・ムーブメント」の提唱者。元ワイヤード編集長、現在は3D Robotics社CEO。

イーロン・マスクは現在、SpaceX社のCEOとして、火星への有人飛行を民間企業として(冗談抜きで)実現しようとしている。途方もない。対談の冒頭に、クリス・アンダーソンから「テキサスに来たのはこのSXSWだけじゃないですよね?」と話をふられ、「SXSW以外にも、テキサスの政治家と会談をもち、ロケット基地を作れないかどうか探りに来たのです。」と答えるイーロン・マスク。「赤道に近いところがベストロケーション」らしい。普通の社長じゃない。「2016年ぐらいには実際に建設したい」らしい。

そして、次にこんなビデオを見せてくれた。SXSWで世界初公開するビデオらしい。

なんと、ロケットが発射され、空中にしばらくそのまま滞空し、そのまま戻ってくるという今までに見た事ない離れ業をやってのけるのだ!この「駐車」ならぬ、「駐ロケット」動画に会場は大興奮!なぜこのようなロケットの開発を進めているのか?という問いに対して、イーロンは「ロケットの再利用性の重要性」について指摘する。コスト的にも、倫理的にも、ロケットを使い捨てにしない、というのはロジックが成立、というわけけだ。この概念が進むと、いずれは宇宙エレベーターに行き着くのだろう。それまで、ロケットというのは「使い捨て」というのが常識だったと思うが、その常識を覆すべく、未来から現在を逆算し、着実に歩を進める姿勢はすばらしいと思う。「成功の度に、少しずつ、遠かった目標に近づきたいんだ」とイーロン。

また、「なぜSpaceX社を創業したのか?火星への有人飛行ができると思った理由は?」というクリスからの質問に対しては、「NASAが未だに誰も火星に人を送り込めてない事にがっかりしたんです!火星に人類が行く、という事に人々がもっとエキサイトすることで、予算も増えるはずです。できるかできないかより、やるかやらないかと言う問題だと思ったのです。」とのこと。その為には、手段を選ぶ事なく、ロシアから弾道ミサイルを購入しようとした事もあったらしい…。(弾道ミサイルを買うって、どういう交渉ルートで買うのか全く想像もつかないけど…)

次は、イーロンの私生活について。これだけのスーパーマンっぷりを発揮しながらも、実は子供が5人もいるらしい。子育てをしながらメールを読んで返信したり、かなりのマルチタスカーのようだ。ただ、他のイーロン・マスクの記事にも書いてあったが、相当なハードワーカーらしい。

<Muppets to Mastery: UX Principles from Jim Henson(マペットから熟達へ:ジム・ヘンソンに学ぶUXの原理)>

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ラス・アンガー・(Russ Unger)氏プロフィール…

ちなみに、ここにプレゼン資料がアップされている。

UXデザイナーの語るUX/UI論。普通のUXトークと違うのは、セサミストリートでおなじみ「マペット」の制作者ジム・ヘンソンの仕事を引き合いに出して、UX/UI論を展開するところだ。ジム・ヘンソンは、マペット制作を通じ、ハックやプロトタイピング、ビジュアルシンキングを実践した。

この話を聞いていて思うのは、「ハック」だとか、「リーン」だとか、「アジャイル」という現在のUX/UI開発の主流を占める手法論が、ごくごく当たり前の事で、パソコンはおろか、インターネットというものが発明される以前から当たり前のように実践されて来ていた、という事実だ。ラスのセッションはマペット制作者のジム・ヘンソンが主題だったが、彼だけが特別だった訳ではないと思う。きっと、もの作りにたずさわる人の間では、言語化されていないにせよ、通底していたメンタリティーだったのではとこの講義を聴いて思った。

<What’s so funny about innovation(イノベーションの何が面白いって?)>

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もともとコメディアンだったバラトゥンデ・サーストン(Baratunde Thurston)が「笑い」の要素を紐解き、イノベーションと何が似ているか?についてポール・ヴァレリオ(Paul Velrio)と語り合うセッションだった。ポール・ヴァレリオがまじめ係、バラトゥンデ・サーストンがおどけ係という役割分担で話が進んだ。

ポール・ヴァレリオ氏プロフィール…
サンフランシスコにあるデザインコンサルティング会社Methodにて、ストラテジーを担当。複数のブランドをクライアントとして担当。

バラトゥンデ・サーストン氏プロフィール…
コメディアンでありつつも、ビジネスパーソン。Cultivated Witの設立者およびCEO。MITメディアラボフェローでもある。声はでかいが、話し方が知的なあんちゃん。

以下はセッション中に取ったメモ:


01:オーディエンスを知れ。そして、彼らに耳を傾けない。
「笑い」において、観客を知る事は重要。だが、観客に何が面白いか?を聞きすぎるのはあまり助けにならない。それよりかは、まず「自分」というフィルターを通してみて面白いかどうか?を判断しなければならない。その後は観客に合わせて多少のアジャストをする。観客が何を知っているかを知っている事が重要だ。

02:データはインサイトの代用にはならない。
データのリサーチをたくさんする事でインサイトは生まれない。

03:常に新鮮であれ。
「笑い」においても、同じギャグを何回も言い続けるのは飽きてしまう。時々何か新しいものを入れこまないと行けない。温故知新という手法もある。

04:自分なりの視点を持とう。
レイトナイトショーを見ると、どの司会者も同じ時事問題を扱っているときがあるが、それぞれ微妙に違う。自分の視点があるからだ。自分自身の考えを公にする事のできるツールがたくさんある今、自分の視座と言うものが自分自身をユニークたらしめる唯一のものだ。よって、自分自身の事を良く知るのが大事。

05:みんなに受けようとは思わない事。
笑いにおいても、市場においても、100%のシェアというものは存在しない。

これで、とりあえず二日目は終了。講義を聴きまくり、新しい価値観にたくさん触れた。テンションがあがる。

SXSW 2013 レポート: “How Twitter Has Changed How We Watch TV”(Twitterはテレビ試聴をいかに変えたか) [Mar. 9]

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SXSW二日目、一番最初のセッション。SXSW公式紹介ページはここから。本当は二日目で参加したセッションをまとめてレポート書こうと思ったが、書いていたらずいぶんと長くなってしまったので、R/GAセッションのレポートと同じく、こちらも独立したポストに分ける事にした。

日本ではなじみが多いテレビとPCの「ながら試聴」。それと近い話だと思うが、ソーシャルメディアとテレビコンテンツの相性についてがメイントピック。講師はジェン・ディーリング・デイビス(Jenn Deering Davis)。ソーシャルメディア関連の会社を自分で起こしたり、博士号を関連する分野で取得しているなど、ソーシャルメディアに関しての専門家だ。

自分はたまたまラッキーだったが、あとで人から聞くとセッションに入れない人がいっぱいいて、会場の出口に急遽同時中継のテレビが設置され、それに聞き入る人だかりができる、という事態になったようだ…。

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会場の外に出来上がる人だかり(by他のSXSW参加者写真)。SXSWでは、人気のあるセッションは最低でも30分前に到着するのが鉄則!(逆に入れなかったときのがっかり感は凄まじい。)

ジェン・ディーリング・デイビス(Jenn Deering Davis)氏プロフィール…
Union Metricsの共同設立者およびCOO(Chief Customer Officer)。Organizational Communication and TechnologyでのPhDを取得。

R/GAセッションと同じく、すばらしい事にスライドがここから閲覧可能になっている。

セッション中から気になった発言や考え方をピックアップした。

「テレビコンテンツの配信設計とソーシャルメディアの関係性」
ジェン氏が言うには、コンテンツの配信の仕方によってテレビ番組がO.A.されているときに巻き起こるtweetのパターンが変わるらしい。

【”On-going Series”(継続型)】
いわゆる普通のテレビコンテンツ(ドラマ)の配信の仕方。毎週決まった時間に配信。
このタイプで一番のツイート量を稼ぐのは”Pretty Little Liars”。自分は見た事ないが、大人気ドラマシリーズらしい。

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ワンシーンで最大30,000ツイート叩きだすらしい。

このパターンで、大きなツイートを稼ぎだす番組の他には…

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“The Walking Dead” であったり、

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“American Idol”や、

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“X Factor”などの、オーディション番組がなかなか良いツイート量を稼ぎだすらしい。O.A.されている時に起こっていることが視聴者にとってツイートする重要なネタになる。

【”On-going Series Finale”(継続フィナーレ型)】
先ほどのパターンの派生形。継続型のツイートは、フィナーレ(最終回)を迎えるときに、ツイート量が頂点に達する。逆説的だが、最終回に達する前でも、ツイート量を観測する事で、そのコンテンツが成功しているかどうかある程度わかってしまう。

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例えば、先ほど挙げた “Pretty Little Liars”と”Terra Nova”(スピルバーグ製作のドラマだったが、コケて製作中止に…)だが、どちらも全国規模でのO.A.にもかかわらず、”Pretty Little Liars”が 2時間で90,000ツイートを生み出すのに対し、”Terra Nova”は同じツイート量に到達するまで2週間はかかるとの事…。受けるコンテンツとそうじゃないコンテンツの差が如実に出てしまうのだ。視聴率なんかより、遥かにリアルな数字である。

【”One-time Events”(一発イベント型)】
スーパーボウルなどのイベントがこれに当たる。イベント当日にツイート量の爆発的な伸びが観測される。最近あったオレオのスーパーボル広告ツイートはこのタイプのコンテンツの時間的特性をよく生かした施策と言えるだろう。「結果が予測できない」というのがツイートを生む大きなモチベーションとなる。

【”Streaming All-at-Once”(一度にすべて配信型)】
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“House of Cards”というドラマが引き合いに出されていた。2シーズン分のコンテンツ制作に約100〜200万ドルをかけたこのドラマ。配信権を獲得したのは既存のテレビ局ではなく、なんとNetflix。ネット経由でのコンテンツを配信する事になった。テレビと違って、配信の方法に縛られる事がないのが利点だが、このコンテンツに関しては、隔週という形ではなくとある金曜日に2シーズン分「まとめて」アップロードする事にした。その後のツイート量を調べてみると、これまでのパターンとは明らかに違い、配信直後から伸びたツイートが緩やかに減少していく、という傾向を見せた。

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先ほど挙げた4つのツイートパターンの変化まとめ。

コンテンツ一つとっても、配信の仕方でソーシャルでの広がり方が全く違うのだ。

「ツイッターを介したインタラクティブなコンテンツの作り方」
コンテンツの配信の仕方だけでなく、作り方にも留意すべき点はたくさんある。

【ユーザーとともにコンテンツ作る】
たとえばゴールデングローブ賞の中継。ゴールデングローブ賞オフィシャルのツイッターアカウントがあるのだが、O.A.中に、「授賞式会場に来ているセレブリティでだれの写真を撮ってきてほしいか?」というアンケートを実施。

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結果、アデルが一番投票され、実際にその様子を撮影し、アップ。実際にイベントが起きている時間をユーザーと共有している共時性を利用、コンテンツを作り出す好例。

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こんな興味深い事例も。Archerというコメディーアニメがあるのだが、

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キャラクターにそれぞれツイッターアカウントが存在する。ユーザーがキャラに絡むときちんと返事が来る。面白いのは、アニメの声優が実際にアカウントの運営をしているところだ。コンテンツが好きなツイッターユーザーならきっと絡むだろう。その絡みがまたツイッター上で広がり、新たなコンテンツ視聴者を獲得する。

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アニメつながりで言うと、シンプソンズなどで有名な作者が作ってるアニメでFuturamaというのがあるのだが、アニメ中に、こんな画面が出てきて、「この後起こるシーンはどんなものか?」という問いが出てくる。たいてい、選択肢のいくつかはストーリーのつながりと関係のある選択肢だが、もう一つの選択肢はストーリーの展開と全く関係のない事(「キャラが奇声をあげる」とか)になっており、ほぼその最後の選択肢が選ばれ、コンテンツが進行する。

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“Hawaii Five-O”というドラマは、エンディングの前に、「どのようなエンディングがよいか」をファンに募集をかけた。結果、東海岸と西海岸では違うエンディングとなったため、わざわざ「二つ別のエンディング」を製作したほどだ。

2年前、AUDIがスーパーボウルコマーシャルで最初にハッシュタグを使ったそうだが、今ではどのスポンサーもそうしている。テレビ離れが叫ばれるアメリカでも、同じような悩みを抱えつつも、ドラスティックに番組作りを変えてみたり、ソーシャルのトレンドを積極的に受け入れようとしている姿勢に感心した。

SXSW 2013 レポート: R/GAセッション “Brainstorming Technology First” [Mar. 9]

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SXSW2013 二日目、R/GAによる超人気セッション!開始40分以上前に到着したにも関わらず、キャパがいっぱいで、運営側から入場を断られてしまうも、なんとかお願いし倒して入れてもらった。このセッションはすごく面白かったので、独立したポストでこのブログでシェアしたいと思う。

Nike+ Fuel Band などを開発、いわゆるトラディショナルな広告ではなく、デジタルの最先鋒を走る旗手であるR/GA。今回のセッションのタイトルは “Brainstorming Technology First”(まず最初にテクノロジーをブレストする)となっており、広告業界なじみの「これまでのブレスト」ではなくテクノロジーを生かす為のブレストの手法論を主に紹介するようになっていた。講師はWill Turnage。Technology & Invention部門のヴァイスプレジデントだ。

そして、すばらしい事に、ここに当日のプレゼン資料があがっているので、見てもらうと良い。

プレゼン資料をかいつまみながら、解説していければと思う。

——

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まず最初に、R/GAの直近の仕事からの紹介だった。

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Duck Dynasty。

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Raybanのアプリ。

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Miyamo。

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プロジェクトでいつも気をつけてるのは、それぞれが “Legible + Interesting” つまり、きちんと「理解」されかつ同時に「面白い」仕事になるようにする事。

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いわゆる「既存のブレスト」のやり方は、きちんとしたブリーフを書いてから、「じゃあ、みんなで思いつくまま考えよう!」という感じが多いと思う。いっぱい考えて、考えて、いいアイデアを思いつくようにがんばる。

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普通は、「アイデア」を考えるフェーズが先行し、その後に「実行」についてできるかどうか考えるフェーズに移行する。そのときに初めて”Is this possible?”(このアイデアは実現可能か?)と言う質問をチーム内で検討する事になると思う。しかしながら、この問いの立て方には大きな間違いがある。

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なぜなら「実行可能かどうか」という問いにはエクスペリエンスとしてどうか?という問いが含まれないからだ。写真にもある通り、実行は可能だが、エクスペリエンスとしてどうなんだと思ってしまう状態は往々にしてあり得る。(ここで会場爆笑に包まれる)

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ユーザーからすると、エグセキューションからアイデアに触れることになるので、エグセキューション自体がエクスペリエンスの導入になるのだ。

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アイデアから実行までを順番に行っていくとすると、実行段階でいろいろ揉んだりしているうちに、元のアイデアに含まれていた部分が失われて、「薄く」なることがよくある。

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そして、アイデアから実行までのプロセスを線的に踏むと、そもそも時間がかかりすぎてしまう。

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では、テクノロジーをきちんと活用する為に、ブレインストーミングはどうあるべきか?

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それは、アイデアを考えながらも、同時に実行についての検討プロセスが平行して進むようになるべきである。

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その為に重要なポイント。かならず、最初の目的に立ち戻る事だ。このアイデアで本当にワークしているかどうか?

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次は、制約を積極的に受け入れる事。何かを作るということは、ある程度の制約の中で行われる事が普通だ。

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そしてもう一つが練習をたくさんする事。テクノロジーを活用する為には、普段からテクノロジーに触れている必要がある。新しいAPIを試してみる、新しいガジェットをハックしてみる、など日頃からのトレーニングが欠かせない。

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ここからは実際にR/GAで活用している”TechFirst Brainstorming”の手法論の話になる。

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ブレストの事前準備。約1~2日をTechFirst Brief執筆に費やす。その際に、施策の目的/ストラテジーに合致するテクノロジーを一つ選ぶ事。それは、具体的でなければいけない。それはOSであったり、プラットフォームであったりと曖昧な選び方にはならない。具体的な機能や特徴でなければならない。

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その後、1時間を上限に、ブレストセッションを展開。まず5~8分をかけて、事前に書いたブリーフをもとに、ブレストの参加者それぞれ、「一人」で回答してもらう。このときに、アイデアを搾り取るように、短い時間で集中して行う。場合によってはこの5分のプロセスを2〜3回繰りかえしてもよい。その後、45分程度をかけてみんなで出し合ったアイデアを共有し、場合によってはアイデアを広げるようにする。

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実際にやってみた具体例を。一つ目は「仮定」メソッド。

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新しいiPadが発売され、大人が触ったときと、子供が触ったときと、赤ちゃんが触ったとき、それぞれの違いがきちんと認識されるような機能があったとする。この機能を使ってできそうなことを10個挙げてみよう。

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ブレストの結果がこちら。白板に書かれているをいくつか拾ってみると…。
・子供用のロック。ペアレンタルコントロール機能。
・Netflixアプリ用のフィルター
・ゲームの難易度を変更させる
・年齢検出

まぁ、これだけだとわかりづらいかもしれないが、いっぱい出てくる。

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もう一つの手法論。”Fill in the blanks”「空白を埋めてみよう」という方法。

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たとえば、コレ。トラックにインスタグラムフィルターがついていたとして、どんな写真を撮ったか?というお題形式で想像力を膨らませるもの。大喜利みたいな感じ。

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いろいろ試してみると、想像力を刺激される回答が出来上がってくる。

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次の手法は、”Magnetic Poetry”と呼ばれる手法。

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見ての通り、いろいろな言葉を組み合わせる事で、アイデアを出す、という手法だ。カテゴリーは”Descriptor”(修飾語)”Technolgy”(技術)の2パターン。

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例をとって、いくつか組み合わせてみる。”fanciful”(空想に富む) + “garbage”(ゴミ) + “tumblr”=「空想的なゴミがあつまるタンブラー」というのは一体どんなものだろうか?

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“bright” + “money” + “followers”だとどうだろうか?想像力が刺激されてこないだろうか?

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さきほどの”Magnetic Poetry”のアップグレード版。

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すこし項目が追加されている。 “Tone”(トーン) “Occasion”(状況)”Functionality”(機能)

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何かのアイデアにつながりそうな組み合わせをどんどんピックアップしていく。

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今度は、言葉の組み合わせではなく、APIの組み合わせでアイデアを作る手法。

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たとえば、”foursquare API” + “instagram API”という組み合わせで考えてみると…。

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それっぽいプロダクトの一丁出来上がり!アイデアを考える為の素地に十分なる。

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この手法をR/GAで実際に活用してでわかった事。

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それはブレストによって生まれるアイデアがより面白く、かつ実現可能なものがたくさん生まれたと言う事だ。

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さらには、時間を短縮した。

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そして、クリエーティブ作業をクリエーティブスタッフだけでなく、それ以外のスタッフにとってもアクセスしやすいものにする事ができた。

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ただ、この手法はかならずしも万能ではない。この手法を活用しても「あんまり俺には向かなかったみたい」と言う人もいる。従来通りのブレストに固執する人もいるかもしれない。そういう人たちに対して無理にこの方法論を強いる必要はない。

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この手法はツールの一つでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、強力なツールである事は間違いない。

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ここからはちょっとしたTIPS。

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ブレストの前段階になるTechFirstブリーフは書き上げるのに時間がかかる。ブリーフの執筆には十分な時間を割く事。

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「このアイデアは実現可能か?」と問いをたてるのではなく、「このアイデアは良いUXで実現可能か?」という問いで繰り返しアイデアを自問自答する事が大切だ。

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そして、このブレストの際には、クリエーティブスタッフだけでなく、それ以外のスタッフにも入ってもらう事が重要だ。

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UCLA D|MAの友人たちとの再会

UCLA D|MA卒業生の、Michael Changとコンタクトをとり、ご飯を食べる事になった。Michaelの計らいで、同じくD|MA卒業生で、現在Googleビジュアライゼーションチームにいる、Jono Brandelとも一緒にご飯を食べる事になった。

ちなみに、MichaelもJonoもすごいやつだ。彼らのポートフォリオサイトとか、直近プロジェクトの紹介する。
詳しくは以下のリンクをみてもらえればわかると思う。

Jonoのポートフォリオサイト
Michaelの学生の頃のポートフォリオ
Michaelの最近のポートフォリオ
(最近は、個人プロジェクトとして、kickstarterでお金を集めたりして、数人でゲームを作って発売しようしているらしい)

常に作り続ける二人は、素直に尊敬する。

そして、久しぶりの会食は本当にうれしかった。インド料理屋と、バーに行った。SF滞在最終日に、GoogleビジュライゼーションチームのあるSF支社を訪問した。Jonoがアテンドしてくれ、短い間だったが、オフィス内を見学させてくれた。Aaron Koblinにも会えて、本当に懐かしかった。

同じ学校で、日々切磋琢磨した仲間たちが、世界中でデザインの領域で活躍しているのをみるのは心が躍る。そして、自分はどうだろうか?とも思う。様々な方面でがんばっている仲間たちに、「俺はこんな事を東京でやってるぞ!どうだ!」と言えるだろうか?今から10年後、みんなは、そして自分は何をやっているのだろうか?きっと、日々の仕事に集中する事で、自分を前に進めてくれるのだと思う。

みんな、東京に来る事があれば、みんなにしてもらった親切を思い出し、ぜひ東京や、自分が働いているオフィスを紹介したい。

スタンフォード大学 d. school訪問

SF滞在の初日、SFOに降り立ってすぐ、その足でパロアルトにあるスタンフォード大学に向かった。前々から気になっている、d.schoolが毎週金曜日に無料でd.school内ツアーを行っており、それに参加するためだ。結局、SF到着が遅れてしまったため、ツアー自体は後半部分しか参加できなかったが、それでも十分に参考になった。

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校内は、個々人が作業する為のスペースと、授業を行う教室があったが、その垣根は緩く、印象としてはまるで一続きの空間のように思えた。そこら中にポストイットがはってあり、白板にはアイデアやブレストの殴り書きが走っている。生徒は自分のスペースでパソコンに向かいながら、何かを作っていたり、みんなで打ち合わせをしていたりした。すべてが「筒抜け」(良い意味で)となっており、d.schoolが醸成している独特の活気が感じられる。

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d.school自体は、学位を授与する教育機関ではなく、クラスをオファーするだけの場所。逆に言うと、スタンフォード大学内の生徒で、先攻によらず自由に参加できる。校内に、生徒のリストとどの先攻かが書いてあったのでみてみると、いろいろなバックグランドを持った人がいるという印象を受けた。スタンフォード大学の中に、プロダクトデザイン先攻があるのだが、プロダクトデザイン先攻の人はむしろ、少数派のグループのように思えた。ツアーを開催してくれていたのが、現役のd.schoolの生徒だったが、そのうちの一人に詳しく話を聞いたところ、彼女も本職は化学の先攻で、たくさんの人がきれいな水にアクセスできるように考えることが彼女のメインの関心ごとらくしく、彼女のプロジェクトはすべてそのテーマに沿ったものとなっていた。

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d.schoolで行っている事はとてもシンプルに思えた。社会の中に存在する解決されるべき「課題」を発見し、その課題に対する「ソリューション」を探す、と言う事。広告会社や、自分の会社でやっている事とそんなに変わりはないのでは?というのが率直の感想。違うとすると、そのアプローチが大きく違う、と言う事。広告会社が主にコミュニケーションという領域という領域だとすると、d.schoolはプロダクトという観点だろう。ただ、d.schoolでは「モノ」を作るだけじゃない。「サービス」などのものでもd.schoolのアプローチは有効であり得る、と思う。

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また、人の雰囲気がネアカ。ツアー担当じゃない学生が、ツアーされているグループに出くわし、ツアーガイドに促され、その場で、簡単に自分のプロジェクトの説明を始めるなど、かなりフランクな雰囲気。ツアーガイドも明るく話す。よって、プレゼンがうまく見える。(というか、かなり環境が楽しいんだろうな、というのが伝わってくる)

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そして、企業とのコラボレーションする形の授業がかなり多いみたいだ。多くの世界的企業のチームと協業し、授業の中でプロジェクトを行う、というのも頻繁に行われるみたいだ。学期の最後には、CEOに直接プレゼンし、それが事業化したもの数多くあるらしい。

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仕事で普段やっている事と、よく似ているが、とはいえ全く同じではなく、ちょっと違う。こういう環境に身を置けば、少し物事が違って見えてくるのかもしれない。勉強してみたいと思う。

ジョンへガティ卿、ダンワイデンの対談ビデオを見た。 刺激を受けた。

少し前に、今年のカンヌでの特別対談のビデオを見た。
ジョン・へガティー卿(BBH)とダン・ワイデン(W&K)の二人が話す、というものだ。

この二人、誰?という方の為に、この二人のバイオグラフィーをカンタンに記すと…。
ジョン・へガティー卿(Sir John Hegarty)…BBH共同設立者の一人。Levi’sのCMが有名。Brad Pittを起用したのは彼。
ダン・ワイデン(Dan Wieden)…W+K共同設立者の一人。Nikeの”Just Do It.”のキャッチコピーを生み出した人。

というわけで、超がつくほどのビッグネームな二人なのだ。
なんと言うか…かっこいいオヤジたちなのだ。
そして、鬼。リアル広告の鬼。
変態と呼んでも良いのかもしれない。
二人がそれぞれ自分のこれまでの仕事を振り返りながら、
語るというスタイルなのだが(二人がどんどん話をしてしまうので、モデレーターとしている司会の人がほとんど話をしていない笑)
二人の対談の中で、気になった言葉いくつか記す。

「ナイキは同じ広告を二回も出稿しない。」
「誰かに手紙を書くときに、同じ手紙を二回も送ったりしないだろう?」

「アイデア80%, エクセキューション80%」
「アイデアは始まりにすぎない。」

「never give up, keep pushing.」
「it’s all about storytelling.」

かっこ良すぎる。

興味深いのは、先日参加したワイヤードのカンファレンスと同じく、彼らもアイデアだけじゃなく、エクセキューションの重要性を強調しているところだ。

WIRED CONFERENCE 2012@Roppongi Hillsに行ってきた

ワイヤード主催のカンファレンスに行ってきた。
クリス・アンダーソンさんのトークが大変面白かったので、レポート記事にしたい。

<Who is「クリス・アンダーソン」?>
US版ワイヤード編集長(つい最近、辞任する報道が出たけど)。日本では書籍が一番有名で、

『ロングテール -「売れない商品」を宝の山に変える新戦略-』
『フリー -〈無料〉からお金を生みだす新戦略-』

などのネット系や、広告関係の人には特に知られた著作を持つ。
最近発売された著書が、『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』
今日行ってきた講演は、このMakers Movementについて取り扱うもの、と言う訳だ。

カンファレンスのページにも、詳しいプロフィールがある。

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<WIRED CONFERENCE 2012基調講演内容要旨>

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クリス・アンダーソンさんの講演は、まず、スイスからの移民であったご自身の祖父の話から始まりました。彼は、仕事の傍ら、「発明」をする事に時間をかけていたそうです。彼のそのときの発明は、「スプリンクラー」。時計の技師がおおい、スイスらしく、そのスプリンクラーにタイマーをつけ、初めて特許を取ったのがクリス・アンダーソンの祖父でした。

「特許をとって、お金ももらえて、すばらしい話じゃないか!」と周りの人は思うかもしれませんが、発明者であるクリス・アンダーソンさんの祖父は「特許」と言う物に対して、良くは思っていなかったようです。彼は、「発明」という行為を通して、自分のアイデアを具現化し、マーケットに出す事に成功しましたが、自分が発明した物が自分の手から離れてしまう事をも意味していました。彼は発明者ではあっても、起業家ではなかったのです。そんな祖父から、クリス・アンダーソンさんは「ものづくり」のいろはを学びました。機械製図の基礎から、実際にそこで起こしたアイデアをプロトタイプに落とし込むまでなど。型から、エンジンを作った事もあったそうです。

時はながれ、現代。物作りはテックショップと呼ばれる、いわゆるファブラボのようなスペースで行われるものとなりました。この物作りの変遷の動きは、当時メインフレームと呼ばれ、アクセスがきわめて限定だったコンピューティングが、パーソナルコンピューターとして人々に広く普及していった流れとよく似ています。

クリス・アンダーソンさんは続けます。「これまでの10年は新しいソーシャルとイノベーションのモデルをウェブで試す事でした。これからの10年はそれを現実世界に広げる事です。」と。

まず最初に産業革命。それは、人が持つ「物理的な力」を例えば水力や電力を使って機械に変換する事を可能にしました。その結果、少ない人間が、膨大な量の製品を作り出す事を可能としました。しかしながら、それはそれまで散らばっていた人々の住まいを工場に集約させる事となりました。そして、その工場は資本家が所有していた物です。

そして、次の産業革命。プリンターという存在(パーソナルコンピュータではない)を考えてみると、プリンターを通じて、波及力は限定的ではある物の、「知識をパブリッシングする」というそれまでできなかった事ができるようになりました。さらに、ブログの登場を経て、知識を広める事ができるようになりました。プリンターとブログは、それぞれプロトタイプのツールであり、ディストリビューションのツールであったと言う訳です。

三つ目の産業革命。つまりこれからの時代。プリンターがプロトタイプのツールであったとするならば、これからは3Dプリンターがプロトタイプのツールとなるでしょう。それに対応する、ディストリビューションのツールは、クラウドマニュファクチャリングプラットフォームの存在があげられるでしょう。ウェブが広まっていったときとおなじ構造がここでもみられるのです。

クラウドマニュファクチャリングプラットフォームの一例…

<alibaba.com>
世界最大のB2Bインターネット貿易サイト。サプライヤーとバイヤーをつなぐ。
http://www.alibaba.com/

<trademanger>
上記のalibaba.comにて、サプライヤーと連絡を取り合うためのチャットツール。やり取りされるメッセージは自動的に翻訳される。
http://trademanager.alibaba.com/

アイデアをプロトタイプし、実際に製品として作るところまで、個人でできてしまうのです。でもその後は?そこで、kickstarterなどでクラウドファンディングを行うのです。

<kickstarter.com>
http://www.kickstarter.com
クリエイティブなプロジェクトのためのクラウドファウンディングサービス。予算はないけれども、魅力的なゲームや低予算映画のプロジェクトがあるユーザーが、他のユーザーから投資を受けることができるプラットフォームです。有名なのは、pebbleというプロジェクト。68,000人以上の支援者を集め、$10,266,845(!)という金額を集めています。

クラウドファンディングがすばらしいのは、お金を借りる必要がない事です。ユーザーからの支持をベースに資金が集まるので、市場調査もかねています。(お金が集まる=マーケットがほしがっている物である、という図式が成り立ちます)また、一番すばらしいのはユーザーからの支持を集める段階で、「コミュニティ」が出来上がるという点です。ユーザーは顧客ではなくなり、参加者となるのです。

クリス・アンダーソンさんの祖父が作ったタイマー付きスプリンクラーは今の時代だったらどうなるだろうか?そんな考えをもとに、クリス・アンダーソンさんが作ったスプリンクラーが、”OpenSprinkler” ネットにつながっており、外からでもスプリンクラーをコントロールすることも可能です。APIも公開されており、手順を経れば、だれでも自分で安価に作る事ができます。クリス・アンダーソンさん自身はスプリンクラーを作った事があるわけでももちろんなく、それでもネットで関係者の力を借り、1ヶ月ほどで作り上げる事ができました。しかも、これまであったスプリンクラーより良い物が。

そのときに使ったツールですが、Autodesk 123Dというソフトがあります。

インターフェース画面をみると、PrintだったりMakeというボタンがあります。考えてみるとすごい事で、印刷する、プロトタイプを作り上げる、というのは一昔前は専門領域で、場合によってはPhdがいるような領域でした。

クリス・アンダーソンさんの娘さんたちにこんな事があったそうです:彼女たちはドールハウスで遊ぶ事が多いのですが、もっと家具を集めたりして、おもちゃのバリエーションを増やしたいと思っていました。そこで、父親であるクリス・アンダーソンさんにおねだりをして、amazonで何かいいものは無いかどうか、いろいろ探してみるのですが、たくさんのメーカーが製品を出しており、そのどれもに規格が存在する訳でもなく、自分たちのニーズに合う物が無い事がわかったそうです。そこで、クリス・アンダーソンさんたちがとった方法とは、プロの家具デザイナーがオンラインで公開している家具のCADデータを入手、それを用いて自分たちのドールハウスで合うサイズに変更し、3Dプリンターで作り出し、自分たちが望む形に塗装してそれを使う事でした。確かに既製品とは品質では勝負できないかもしれませんが、彼女たちにとってはそれで十分であり、しかも自分たちのクリエイティビティーが発露できたと感じているのです。これまでの消費活動の代替にはなりませんが、オルタナティブとしては十分機能しうるのです。

(ちなみに、Autodeskの”123D catch“と言うツールを使えば、iPhoneで撮影した対象物が自動的にデジタルモデルに変換されるというさらにすごいアプリがあります。)

ビル・ジョイというコンピュータ技術者(サンマイクロシステムの初期メンバーの一人)によるこんな話があります。

すべての知識、そしてアイデアを現実にするためのインフラがすべてネットで探し出せるこの時代、世界の名だたる企業で働くのは「優秀な人」ではなく、企業が求めるクライテリア(いい大学を卒業している、言葉が話そうとしている、など)に合致する「安全な人」であると。企業が求めるタスクに対して、企業が雇用しているのは実は「最高のスタッフ」ではない、ということです。

では、最高のスタッフとはどこにいるのか?

クリス・アンダーソンさんは、3D Roboticsという会社を経営しています。もともとは、ご自身の子供がレゴとモーターを使っておもちゃを作ろうとしているのをみて、「これが空を飛んだら面白いかもな」と思い、趣味で作った空飛ぶラジコン(DIY Drones)を製品として売り出すために作った会社です。

クリス・アンダーソンさんがこの空飛ぶラジコンのプロトタイプを作ろうと思っている事をブログで呼びかけたところ、反応したのがメキシコに住んでいるJordii Muñozという人でした。

その後彼とクリス・アンダーソンさんは、アイデアを製品に落とすため、ラジコンのプロペラを稼働するために必要なモーターをalibaba.comで中国のサプライヤーに発注し(翻訳はtrademanagerで行われる)、モックアップを作り出しました。

数年前にほんの思いつきで始まったプロジェクトは、適切なコミュニティを作ることで、自ら関与したいと思える人を世界中からあつめ、実際の企業として事業化への道を歩んでいます。

このJordii Muñozという人物ですが、クリス・アンダーソンさんにコンタクトをとったときはほんのティーンエージャーにしかすぎず、大学教育を受けた訳じゃありません。いわゆる従来の基準でいうと、決してつながる事の無かった二人です。しかし、このDIY Droneというプロジェクトにおいては彼が「最高のスタッフ」であったのです。クリス・アンダーソンさんが決して彼を求めた訳でなかなく、彼がクリス・アンダーソンさんを探し当てたのです。

ここに、新しい時代の物作りのヒントがあります。クリス・アンダーソンさんはこの3D RoboticsでフルタイムのCEOとなるために、WIREDの編集長を辞める事となりました。

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なんだか、ものづくりの動きというと、自分でもわかった気になっていたけど、それよりももっと大きな事が動いているのかなと感じた講演だった。いろいろ自分でも考えてみよう!

2012年カンヌ注目事例


今更、という感じもあるが、今年のカンヌで気になった広告事例をいくつかまとめてみた。

個人的には、「ネガティブな要素がある広告」に注目している。なぜネガティブか、と言われれば、自分がひねくれているという性格的な部分もあるかもしれないが、そこに何かしら人間の素性を示す要素があるような気がしてならないからだ。

「正義と悪」というテーマで登場人物が比較されるとき、正義(=つまり正しい事)だけの視点では何となくつまらない。負の面である「悪」が描かれてこそ、物語に深みが出る。(スターウォーズとかもそうだったし)という訳で、ネガティブな要素がキャンペーンの中にある事例を集めてみた。

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「憤怒:イライラの昇華」
“Parking Douche”

ロシアの新聞社、”Village”が展開したキャンペーン。ロシアにはびこる駐車クズども(=parking douche)を一掃するためのもの。街中で違法駐車を見つけた場合、専用のアプリを使って車のナンバーなどの情報を投稿。投稿情報をもとに、違法駐車が停められている近辺でVillageのウェブサイトを見ている閲覧者に、まるでページの閲覧をブロックするかのように、違法駐車車両が画面上に登場。邪魔な車両をどけ、再びページが閲覧できるようにするには、facebook上にてこの違法駐車車両について、「晒しあげ」をする必要がある。違法駐車がもたらす「イライラ」をうまく昇華した事例。

「喪失:〜〜がない」
“Empty Pages”

ペルーの新聞社”El Bocon”が展開したキャンペーン。この事例は、ペルー内で行われたとあるサッカーの試合において、白熱したファン同士のいざこざがもとで死亡してしまったファンの存在が契機となっている。サッカーの試合において、このような暴力沙汰が起こってしまったことへの抗議として、El Bocon紙は、キャンペーン当日のサッカーに関連する紙面をすべて白紙化。「白紙の紙面」という衝撃的な見栄面のまま、新聞を発行。ページをめくっていくと、白紙部分のあるところにメッセージが。「繰り返される暴力はフットボールを消してしまう。フットボールを守ろう。人の命を守ろう」当たり前にあると思っているものを喪失させることで、ストレスを生み出し、メッセージにフォーカスを当てることに成功している。

“Book Burning Party”

ミシガン州トロイにある公立図書館のキャンペーン。地元行政の財政状況の悪化により、いったんは閉鎖に話が進みかけてきた図書館だったが、それに反対するため、「図書館の本を燃やすパーティー」を企画。SNS上で展開。本を燃やすという好意に対して、多くのアテンションを獲得することに成功。「図書館がなくなるように投票すること=財政状況の改善」から「図書館がなくなるように投票すること=貴重な書籍を燃やすことに等しいこと」というパーセプションチェンジを実現。「図書館の本がもしなくなったら」という喪失をキャンペーンが演出することによって、メッセージを伝えることに成功している。

「仮定:もし何とかだったらどうなるか」
“The Return of Dictator Ben Ali”

チュニジアにて国民に投票を呼びかけるためのキャンペーン。長年の独裁政権を倒し、民主政治の道を歩もうとしているチュニジアの国民だったが、国内は疲弊しきっており、誰も政治にもはや興味を持っていない。そこでこのキャンペーンは、街の見晴らしのいいところに、昔の独裁者の顔写真がプリントされたOOHを展開。これを見て、独裁者が再び戻ってきたと勘違いした民衆は、怒ってこのOOHを取り外そうとする。すると、OOHがうまい具合に外れるがその下にはもう一枚、別のOOHが。「投票をしなければ、独裁者は再び戻ってくる。」というメッセージとともに、国民に政治に参加し、投票することの重要性を問いかける。「もし失脚したはずの独裁者が戻ってきたら?」という仮定を用いて、ストレスフルな状況を作り出し、コミュニケーションする事例。

「現実:みたくないかもしれないけれど」
“I have already died”

オランダでのALS(筋萎縮性側索硬化症)についての理解を普及・啓蒙、そして寄付を促すキャンペーン。ALSは進行することによって、死に至る病であるが、実際にALSとして診断された患者をキャンペーンに起用。広告物に登場する人物として、ALSに対する理解と、寄付を促すメッセージを発信する。ただ、すごいのはこの広告が出稿される時期。
掲載されるのは、広告内で登場している人物が死亡してから。広告を見た人は、今実際自分が登場人物が「既に死亡している」という現実をまざまざと突きつけられることになる。見たくない現実をあえて突きつけ、コミュニケーションする事例。

“Adoption Drive”

ペディグリーによる引き取り手のいない捨て犬の里親になることを啓蒙するニュージーランドでのキャンペーン。3D映画のシネアドとして放映される素材を2パターン用意。その際に、観客はキャンペーンのために寄付をしたか否かによって別々の3Dメガネを手渡される。寄付をした場合と寄付をしなかった場合とで、放映されるシネアドが違って見える。寄付をした人の場合は捨て犬がきちんと保護されていくというもの。寄付をしなかった人の場合は捨て犬が救われないというもの。自分の行動の結果によって、救われない(見たくない)現実を見せつけることで、コミュニケーションする事例。
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人の怒りであったり、悲しみを誘うような手法というのは、一歩間違えれば、炎上するリスクも極めて高い。このようなリスクをとろうとする広告主も、きっとそう多くはないだろう。(事実、上に上げた事例の広告主は一般企業ではなく、炎上をリスクとは捉えないNPO/NGO団体が多い。)だが、逆にここの炎上リスクについても綿密な計算が成り立つのであれば、機能するとも言い切れる。

例えば、先の独裁者の事例も、「きちんと騒ぎになるように」(これもへんな書き方だが…)その場で民衆の怒りに火をつけ、OOHをはがすという行為に至らせる為の「発火役」の人間がいたようだ。しかも、その後の媒体露出までのスムーズな移行が、キャンペーンを成功に導いたといっても過言ではない。いずれにせよ、極めて緻密な計算である。

ただの「恐怖訴求」ではなく、どのような反応になるのか、どのように炎上するのか、それがどう広がっていくのか。結果までを計算した上で、ネガティブな要素を触媒として使えば、大きなリターンをきっと得られるだろう。

マキャベリズム的プロデュース思考


広告における「いいプロデューサー」とはなんであろうか?

広告業界において、良い仕事をするために、たくさん仕事人が日々自身のパフォーマンスを研鑽すべく同じように問い、仕事に臨んでいるかと思うが、私は「マキャベリズム的思考」がなされているかという事が、一つ条件としてあると思っている。

マキャベリズムというと、「権謀術数主義である」だとか、「目的の為に手段を選ばない」だとか、ネガティブな意味がつきまとうが、こと広告の仕事となると、この考え方は美徳に変化する。

エントリーの最初にも”Shit Happens”(「クソなことは必ず起こる」)とあるが、どんな仕事でも必ずそうだと思うが、仕事をしていると「あり得ないだろう…」と思う事含め、それこそ本当にいろいろな事が起こる。しかも、それは様々なレイヤーで起こる。そして、そういう事が起こるたびに「自分はなんてついていないんだろう…」と思う。だがその反面、「これを回避する為に何かできる事は無かっただろうか?」とも考える。

そんな時にこそ、マキャベリズム的思考が重要となってくる。
四方八方から降り掛かってくるであろう火の粉を、一つ一つ、脅威となる前に
・「レイヤー関係なく」
・「手段を問わず」
つぶしていくのが広告プロデューサー的観点から見たマキャベリズムだ。

ある種未来を先読み仕様とする事なので、これは非常に難しい。起こってもいない事を、考えて考えて、少しでも危険な香りがしたら、先回りしてひとつひとつ火消しをしていく。

この火消しの際に、役職であったりだとか、役割は関係ない。破綻をきたすような事が無いように、すべての要素がつながり、安全な一本の線になるように最新の注意を払う。この線を途切れさせようとするものは何があっても排除する事。また、それだけでなく、なるべくこの線が太くなるように補強をしていく。怠けては行けない。一瞬の怠惰は、このか細い線を寸断するには十分すぎる可能性を持つ。

この作業をなにがなんでもやりきろうとする意思の強さがプロデューサーに求められるマキャベリズム的思考だ。

映画”bourne ultimatum”にて、手段を問わずボーン抹殺をもくろむクレイマー長官(CIAの偉い人)が言った台詞がある。

“My number one rule is hope for the best, plan for the worst”
(最上を望み、最悪に備えた計画を立てるべし)

まさにこの通りだと思う。過度にビビってはいけないが、最悪を想定すればするほどリスクは回避され、シミュレーションは精緻になっていく。

電通鬼十則に「頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。」という言葉があるが、「八方に気を配って」というのはこのマキャベリズム的思考の事を指しているのではとさえ最近思う。

リスクを取り除き、理想的な状態をキープできている事自体がある種の芸術であり、クリエーティビティーが発揮されている証左である。

書いている本人がまったく実践ができていないが、自分の戒めとしてもしっかりと実践していきたい。

 

ソーシャルは嘘ばかり

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facebookやtwitter上で展開される情報で、いかに嘘が多いか、最近よく感じる。震災直後も、デマなどのたぐいが多かったが、最近はより巧妙になってきていると思う。有害な情報ではないので、いいのだが、いかに信用する人が多い事か。だが、流す方も巧妙に作っているので、受けてもシェアするトリガーを押してしまうのだと思う。

最近だと、これ。

ちなみにビルゲイツは学生時代に常に数冊の本を持ち歩いていて、少なくとも年間300冊以上は読んでいた。それが原因で学校の連中に「prn(印刷物を意味するprintからきた侮蔑する言葉)」とあだ名を付けられたんだが。ビルゲイツはいい年になった今でも当時のあだ名をひどく嫌っているらしく。windowsで新しいフォルダを作るときに「prn」という名前を付けられないようにした

※あだ名の理由は若干の違いあり

ビルゲイツの学生時代の話はデマなのだが、よくできていると思う。ウィンドウズユーザーであれば、すぐ自分で試してみる事ができ、実際、本当にフォルダを作る事ができないので、「本当だ!」と真に受けてしまうのである。

※ちなみに、prnという名前でフォルダが作れないのは、「予約デバイス名」と呼ばれる予約済みの名称がウィンドウズにあるため。

うまいなと思うのは、自分でいったん「試してみる」というプロセスを踏ませる事が受け手にできるので、このプロセスを通じて話を本当だと信じさせてしまう事ができるのである。「ストーリー」を体験させてしまうと、話の真偽を疑うという過程がごっそり抜けてしまうのである。多分、「自分でやってみて体験した」というところが受け手の中での真実になってしまうからだと思う。

ソーシャル上でシェアされている「いい話」とかはなるべく気をつけるようにして、ひと呼吸置いて考えてみる事にした方がよいと思う。デマやホラをシェアしたとわかってしまったときの、恥ずかしさといったらないだろうから。